2 和議の為に鎌倉殿の名代として、御台所(正室)の政子殿が来ているらしい。まさか妻を一人和議へ送り込むなど、普通は有り得ない。このことが、和議に対する鎌倉の本気さを周囲に思わせていた。 「驚いたな。こうも簡単に・・・和議が成る・・・?」 隣りで呟いた弁慶さんと、私も同じ気分だった。 今まで頑なに平家との調和を拒んでいたのが、嘘みたいにするすると話が進む。素直に喜ぶ九郎さんや望美ちゃんには悪いけど、どうにも腑に落ちない。 ちらりと私を見下ろした弁慶さんに、首を横に振った。勿論、私の知っている歴史で平家と源氏の和議などはなかった。今までは要所要所でズレはあったものの、大きな出来事の概要は類似していたのだ。でも今回に限っては、完全に私の記憶にはない。 「もしこれで戦が収まるのならば、これ以上のことはありません。・・・素直に喜べないのは、僕がひねくれ者だからでしょうか」 「私は、用心していても良いと思います。期待が外れた時に悲しくなるから」 ・・・弁慶さんがひねくれているのも確かだけれど。 付け足した言葉は口にしない。真剣な時にそんなことを言おうものなら、あとでどんな制裁が待っているか、考えたくもない。 それに、軽々と冗談を飛ばせる気分でもなかった。 「弁慶さん・・・もしかして、なんですけれど」 聞きたくないと思いながらも、胸に留めておくには重すぎて。和議の詳細をまだ聞いていない私は、恐る恐る問う。 「和議の会場は、一ノ谷や生田の近くではありませんか?」 弁慶さんの瞳が僅かに揺れた。肯定。それで私は、更に暗澹たる気持ちになった。弁慶さんもきっと、私の問いで察したのだろう。 場所が、悪すぎる。もしも和議が偽りだとしたら、源平合戦でも有名なあの・・・一ノ谷の戦いの勃発は確実。 もしそうなったら。平家追討はいよいよ本格化するのだ。 「弁慶殿あかり殿、政子様がお呼びです」 タイミング良く現れた伝令に、私たちは暗い表情で顔を見合わせた。 130424 |