源氏から平家への和議の申し入れ――その、にわかには信じ難い決定が伝えられたのは、私たちが熊野から帰還してすぐのことだった。

その前に、少し熊野での顛末を補足しておく。結果からいうと、遂に九郎さんと熊野別当の面会は叶わなかった。その上、熊野水軍の確実な協力も取り付けられなかった。鎌倉殿の期待に、応えることはできなかったのだ。
熊野はあくまで中立を守るらしい。平家の怨霊を赦すつもりはないが、現状では源氏の力を信用しきれないのだという。

このように述べると絶望的なようだが、しかし実際は、悲観するような結末ではなかった。水軍は得られなかったが、代わりにヒノエくんが八葉として同行することになったのだ。ヒノエくんは皆には秘密だが、熊野別当その人。彼が来るということはつまり、ヒノエくん自身は九郎さん、そして望美ちゃんに賭けてもいいと思っているのだ。

その事実だけで私は、心強く思う。九郎さんの良さを分かってもらうには、多分傍で見てもらうのが一番だから。

(いざという時も、ヒノエくんは適切な判断をしてくれるだろう)

それが源氏にとって吉か凶かは、保障できない。ヒノエくんは熊野を一番に守るだろうから。

このような背景の中での帰還。
九郎さんも、これから平家に対してどう出るか、まさにその指示を鎌倉に仰ごうとしていた矢先の和議であった。





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