「弁慶さん。それは、源氏軍を裏切る算段も、視野に入れているということでしょうか」

「察しが良くて助かります」

「わかりました。具体的に動くときは、言って下さい」


私なりに色々考えての発言だった。裏切るとなれば弁慶さん一人でも、色々行動には気を使う必要があるだろう。私がいたら、もっと危険になるかもしれない。でもきっと、一人よりも二人の方が動きやすいのではないか。何よりも彼は、それを私に打ち明けたのだから、そういうことなのだろう、と。

――ところが弁慶さんは、勢いよく振り向き目を丸くし、顔をしかめたのである。


「は?」

「や、役に立てることは少ないですけど!私でも九郎さんの気を逸らす位はできると思いますし、私の知識がお役に立てるならなによりですから。私は、弁慶さんに協力します」


私の言葉を聞いて、弁慶さんの表情に困惑が浮かぶ。訝しむように睨み付けられた。


「貴女、何を言っているのかわかっているんですか。僕は、平家に寝返る算段をしていると言っているんですよ?それは、神子や九郎を敵に回すということです」

「わ・・・わかってます、それくらい。というか弁慶さん、私の協力を期待して話してくれたんじゃないんですか」

「違います!僕は、貴女に僕への考えを改めてもらおうと――・・・」」


そこで食い違いに気づく。弁慶さんは、私に弁慶さんへの想いを諦めて欲しいらしい。大罪を犯し、仲間を裏切り、それを平気でする男だから嫌いになれ、と。


「・・・残念でした。私はそんなことでは貴方を諦めないし、今の話に失望する部分は少しもありませんでしたから」


意味がわからない、と呆然とする彼を前に私は笑みすら浮かぶ。
失望するどころか、より愛おしく感じた。その、器用で頭が良い癖に、真面目で何もかもを背負い込もうとする無謀さを、放っておけないと。


「貴女は、おかしい」

「おかしくなんか、ない。だって私は弁慶さんの補佐で・・・弁慶さんが大好きなんですから」


つまるところ、全ての原動力はそれなのだ。なんて馬鹿らしく愚かな動機なのだと、自分でも思う。でも感情に従うしか、私には選択するすべもないのだ。


「先程、この世界が好きかと聞かれて、私はわからないと思った。でも、弁慶さんがいる世界だから、守りたいと思う」


思い返してみると、私の行動理由は不純なものばかりだ。初めは、保身の為に源氏軍に入った。次第に史実を目の当たりにしているようで、楽しくなった。でもそこは現実で、殺し合いをする源平、どちらが正しいのかなどわかるわけがない。


「ここで源平の戦いにおいて、私にどちらが正しいかと言う資格はないんです。私にとっては、所詮は他人ごと。でも弁慶さんの方法で戦いが終わるのなら、それが良いと思うし協力したい」


宙ぶらりんな今の私。弁慶さんはこの世界で唯一、私が欲しいと思った人。行動指標となっても、仕方ない話だと思う。


「私では、貴方の役には立てませんか?」


祈るように、尋ねた。





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