「話は三年前に遡ります」


その切り出しから始まったのは、今現在のこの混乱の発端ともいうべき事件の話だった。
その頃弁慶さんは比叡山を出て、京で薬師をしていらしい。だがそれは表向きで、実際は九郎さんたち源氏方に既に組みしていたという。更に、薬師の顔を利用して平家一門の邸宅に出入りし、情報を得ていたという。ただの薬師でありながら彼は、平家の棟梁である清盛に気に入られるようにまでなった。そして知ったのだ。平家は一門繁栄の為に、京の龍脈を呪詛で汚し、応龍を操っていたのだと。

弁慶さんには多くの知識があった。比叡山で知ったもの、独自に調べたもの、出処は様々でありその性質も様々なものである。そして彼は知っていたのだ。清盛を止め得る呪詛を。そして行動に移した。龍脈を汚し、応龍を滅ぼす呪詛である。それは見事に成功し、応龍は滅びた。

だが誤算だったのは、再び応龍が生じることがなかったということだ。その原因を知ったのは更に一年程後、清盛が怨霊として生き返り、平家が怨霊を生み出すようになった時である。当時の熊野別当、湛快さんと共に清盛を襲撃するも惨敗。

結果は、言うまでもない。応龍が居ない世界の均衡は崩れ、京は荒廃した。
そして現在へ至るのだ。






「――・・・・・・」

「驚いたでしょう。僕が全ての原因なんです」


淡々と語り終えた弁慶さんは、自嘲するように息を吐いた。正直な話、どう反応して良いのか迷った。あまりに話が壮大すぎたのだ。それでも何か言おうと口を開いたが、


「いいんですよ。別に、慰められたいわけでも同情を求めているわけでもない。理解すら、期待していません」

「・・・――っ」

「僕はね、何が何でも決着を付けたいんです。手段は選びません」


口を挟む余地は、与えられもしなかった。矢継ぎ早に飛び出す言葉を、受け止めるだけで精一杯だ。
そして、弁慶さんの口から零れ落ちる。


「そう――戦いが終わるのなら、源氏側から離れても良いと考えています」


海のさざめきを眺め、なんでもないように。しかしそれは、とんでもない発言だ。
確かに彼の所業は、未曾有の大混乱を引き起こす切っ掛けとなった。全てが彼の責任ではないが、原因だと糾弾されても仕方ない立場でもあるのだろう。
このことを知っているのはきっと、ほんの僅か。彼はずっとそれを胸の内に秘め、一人で戦ってきたのだ。過去の、自分の罪と。

私は弁慶さんの言葉を噛み締める。

(簡単に私が、口を出せることではないけれど)

自分の無力さが嫌になる。もっと何か特別なことができれば、役に立てただろうに。思ってもどうにもならないと、分かりながらも願ってしまう。

意を決して、口を開いた。


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