あの日。弁慶さんに宣言してから私は、少しでも彼に近づこうと必死だった。
思えば今まで、これほどまでに彼に大してアピールしたことはなかったかもしれない。好きだと自覚してから、暫くは傍に居られるだけで満足だった。恋人の契約をしてからは、彼に好いてもらうより仕事上で認めてもらいたいという気持ちの方が先立っていた。

今は源氏軍ではなく、九郎さんを中心として神子と八葉、そして私のみで行動している。要所要所で鎌倉幕府との連絡役が待ち受けているが、基本的には動向しない。
たまたま合流した有川にいたっては、無関係どころか幕府のことも知らないのだ。

これはつまり、いつもより弁慶さんと近い位置に居られるということだった。雑用を命じられる私は、一般兵と仕事することも多い。けどそれがないというのは、それだけ彼との時間が増えるということだ。

できるだけ隣にいるように心がけ、会話をしようと努め、尚且つうざがられないように気をつける。今更、性格は知られているから変えられない。だけど、少しでも心を開いてくれたら、なんて。

(こんな経験皆無なのに。初めてが難易度、高すぎ・・・)

そんな折、転機が訪れた。
那智大社での束の間の休息の際、弁慶さんが山に分け入るのに気付けたのは、本当に幸運なことだったと思う。途中見失いかけたものの、なんとか見つけたのは弁慶さんと湛快さんの密会だった。
重要らしいことは聞けなかったが、弁慶さんは呆れたようにして教えてくれた。どうしても戦いを終わらせたい、独自の活動も視野に入れている、と。

そして、約束してくれたのだ。


「あかり。一刻後、入口に。ここには戻ってきませんから、荷物は全て持ってきてください」


那智大社の件の翌日。朝食の席で、弁慶さんに告げられた。
宿に泊まった一行は、これから本宮方面へ進むことになっていた。しかし、私と弁慶さんは全く違うルートを行くことになるらしい。


「実は弁慶さんと、遠出することになったの。少し先で合流することになると思う」


望美ちゃんに告げると、彼女は目を輝かせ、思いついたように立ち上がる。


「そうだ。あかりちょっと待って」

「望美ちゃん?」

「おまじない。弁慶さんとあかりが、もっと親密になれますように」


数分後、満足したような簡単と共に解放された私に、望美ちゃんは力強く言った。


「あかり、頑張ってね!」

「・・・うん!」


そうだ、頑張らなければならない。
これはきっと、最大のチャンスだ。





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