全く、あかりという女は予想外の動きばかりしてくれる。途中で後をつけている彼女を完全に撒いたと思ったのに、諦めてはくれなかったようだ。
湛快との会話で、重要な部分は聞かれはしなかった。その代わりに、余計な約束をする羽目になったが。


「お前、どうする気だ。邪険にしているようで、やけに嬢ちゃんに構うじゃないか」

「兄さん――それ以上は言わないで欲しい」


湛快が言わんとしていることがわかり、指でこめかみを抑えながら制す。

(もう、誤魔化しきれない)

仲間たちには、弁慶がつらくあたっているようにしか見えないだろう。が、流石に兄である湛快には気づかれた。
弁慶の言動には、矛盾がある。あかりを痛めつけるその行為は、彼女への執着心の裏返しなのである。

(本当に興味がないのなら――嫌っているのなら、構わなければいい)

愛の反対は無関心だと、話していたのは誰だったか。あまりにも確信を付いたその理論は、弁慶の胸にしつこくの残っていた。
あかりは、どうしようもなく弁慶の神経を逆撫でする。だが、それでも傍に置いておきたいのは、彼女に惹かれているからに他ならない。


「男女の仲に口出しするのは野暮だと、わかっているがな。あんな姿を魅せられて、放っておけるかよ」


湛快は弁慶の心を見透かすように、話してみろ、と促す。一瞬、はぐらかそうかと思うも、今更取り繕う余力もない。


「――彼女に惹かれていることは認めましょう。あかりは不思議な人だ。僕の心にするりと、入ってきてしまう」





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