4 「あかり。僕が兄さんに会う為に人目を忍んだ理由、わかりますね」 あかりは弁慶の顔を伺い、小さく頷いた。 「僕は僕なりに、人脈やら知識やらを使ってこの戦いに向かい合おうと思っている。兄にはその、手伝いを頼んでいるのです」 弁慶の言葉には、利がある。弁慶やあかりは源氏軍に属する身ではあるが、ただ源頼朝の命に従うのでは、不安要素が多い。策士である弁慶としては、当然の考えだ。 しかしあかりは顔色を悪くした。 「その様子だと、僕のしていることは意味を成さないのかな」 「そ、そんなことないです!私にはそこまで知識はないですし、この世界と私の世界は違います!私は弁慶さんが心配なだけで・・・」 その会話で、湛快は思い出す。 (彼女の世界には、こことよく似た過去があったとか) だから、彼女が知っている”過去”にこの世界が近ければ近いだけ、その知識は武器になる。諸刃の剣ではある。知りすぎれば、引き摺られる。 弁慶も承知なのだろう。彼女に、詳しく先を問い詰める気はさらさらないらしい。 「そうですね。僕はもう少し兄と話があります。貴女は先に戻っていなさい」 弁慶はあかりに指示を下す。しかしあかりは躊躇うように眉を寄せた。中々従わない彼女を、彼は訝しむ。 「ここまで手を明かしたんだ、信じてもらえませんか」 「弁慶さんは・・・嘘つきですから」 俯きながらの彼女の言葉に、湛快は吹き出しそうなのを堪える。実に、正しい観察眼だ。 弁慶は兄をチラリと睨みつけ、嘆息して腕を組んだ。 「・・・わかりました。明日、宿に着いたら二人で出かけましょう。少し足を伸ばせば、花の窟がある。それでいいですか」 「えっ」 「嬉しくはありませんか、僕との逢引は?」 「う、嬉しい!!嬉しいに決まってますっ!!」 弁慶の呆れ顔とは対照的に、あかりは顔を真っ赤にして弁慶の手を取る。 「――わかりました。先に戻ります。九郎さんにも言いません」 そして、ぺこりと湛快に頭を下げると足早に去っていった。 |