「あかり。僕が兄さんに会う為に人目を忍んだ理由、わかりますね」


あかりは弁慶の顔を伺い、小さく頷いた。


「僕は僕なりに、人脈やら知識やらを使ってこの戦いに向かい合おうと思っている。兄にはその、手伝いを頼んでいるのです」


弁慶の言葉には、利がある。弁慶やあかりは源氏軍に属する身ではあるが、ただ源頼朝の命に従うのでは、不安要素が多い。策士である弁慶としては、当然の考えだ。
しかしあかりは顔色を悪くした。


「その様子だと、僕のしていることは意味を成さないのかな」

「そ、そんなことないです!私にはそこまで知識はないですし、この世界と私の世界は違います!私は弁慶さんが心配なだけで・・・」


その会話で、湛快は思い出す。

(彼女の世界には、こことよく似た過去があったとか)

だから、彼女が知っている”過去”にこの世界が近ければ近いだけ、その知識は武器になる。諸刃の剣ではある。知りすぎれば、引き摺られる。
弁慶も承知なのだろう。彼女に、詳しく先を問い詰める気はさらさらないらしい。


「そうですね。僕はもう少し兄と話があります。貴女は先に戻っていなさい」


弁慶はあかりに指示を下す。しかしあかりは躊躇うように眉を寄せた。中々従わない彼女を、彼は訝しむ。


「ここまで手を明かしたんだ、信じてもらえませんか」

「弁慶さんは・・・嘘つきですから」


俯きながらの彼女の言葉に、湛快は吹き出しそうなのを堪える。実に、正しい観察眼だ。
弁慶は兄をチラリと睨みつけ、嘆息して腕を組んだ。


「・・・わかりました。明日、宿に着いたら二人で出かけましょう。少し足を伸ばせば、花の窟がある。それでいいですか」

「えっ」

「嬉しくはありませんか、僕との逢引は?」

「う、嬉しい!!嬉しいに決まってますっ!!」


弁慶の呆れ顔とは対照的に、あかりは顔を真っ赤にして弁慶の手を取る。


「――わかりました。先に戻ります。九郎さんにも言いません」


そして、ぺこりと湛快に頭を下げると足早に去っていった。





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