面白がるような彼を、弁慶は睨んでみせる。しかし目の前の男は、一層笑みを濃くするだけだった。


「兄さん、勝手なこと言わないでください」

「だが、女誑しのお前がそこまで振り回されるとは、なかなかの女だろうな。俄然興味がわいてきたぞ」

「女性としてならば、望美さん・・・・・・神子の方が遥かに素敵ですよ。あれは確かに特異な女だが、腹が立つばかりだ」

「弁慶。自分では気づいてないのだろうが、あかりとやらについて語るお前は、ちょっとからかえない表情だぜ」


弁慶はむっとして言い返すが、やり手の軍師もこの男の前では、少し扱いづらい年の離れた弟に過ぎないようだ。


「何が言いたいんです」

「まだわからんのか。それとも自覚したくないのか」

「・・・・・・それよりも。頼んでおいたものは、どうにかなりそうですか?」


いささか分が悪いことを悟り、弁慶は話を無理やり本筋へ戻した。こんなことを話すために、仲間の目を盗んでやってきたわけではない。

本宮大社へ向かっていた一行は、熊野路の半ばで足止めをくらった。なんでも後白河法皇が熊野詣にやってきているらしく、しばらく本宮への道は通せないと言われたのだ。
仕方なく、勝浦の方へ迂回することにした。随分大回りだが、土地勘のある弁慶やヒノエの御蔭で、順調に進んではいる。だが、勝浦に着くなり川の氾濫が収まらず本宮へ行くことができないという情報を入手。様子を見に行こうということになったのが、つい先日の話。

そしてここは、那智大社に隣接する鎮守の森だ。一行はしばしの休憩を取る為に立ち寄っている。その隙の会合。弁慶と男、藤原湛快は、前々から連絡を取り近日中の再会を約束していたのである。

湛快は顎をさすりながら、眉を寄せて答える。


「ああ・・・まぁ、な。難しい部分もあるが、可愛い弟の為だ。どうにかするさ」

「お願いします。兄さんが動いてくれれば、僕も安心して動ける」

「褒められるのは嬉しいが、あんまり期待はするな。所詮、人の手によるものだからな」

「わかってます。もしもの時も恨まないし、熊野に飛び火しないようにしますから」


弁慶の言葉に、湛快は渋い顔をした。彼がどんなに苦労して熊野を治めてきたかは、わかっているつもりだ。弁慶の個人的な動きに、彼ら熊野を巻き込むわけにはいかない。
それから、と背後に向かって問い掛ける。自然と、鋭い口調になった。


「あかり、僕が気づかないと本気で思っています?」


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