6 私の苦笑に敦盛さんは困ってたように口を閉ざした。悪いことをしてしまったと、僅かに後悔。彼にこの自嘲は通じない。弁慶さんと私の”勝負”は、二人だけの秘密なのだから。 (そっか、弁慶さんの出身地でもあるんだよね・・・) 敦盛さんに指摘されたことで、今更のように意識する。 弁慶さんは他人が・・・私が、不必要に彼の内面、プライベートゾーンに踏み込むことを嫌う。だから、実際弁慶さんについて知っていることは少ない。 (きっと熊野行きも、あんまり乗り気じゃなかったんだろうな) 彼が熊野出身だと知ったのも、九郎さんの発言から。改めて、あんまり好かれてないなぁと自覚する。 (本当は、知りたいのに) 彼の内面に無理やり踏み込もうとまでは思わない。ここが彼にとって良い思い出のある故郷とは限らないから、昔話とかもいらない。 ただ、どんな些細なことでも私は弁慶さんのことが知りたい。あれが好きとかこれが嫌いとか、本当にどんなことでも良いのに、何一つ知らないのだ。 「・・・あかり」 「はっはい!?」 考え込んでいたところに、弁慶さんに話かけられて飛び上がる。 「ヒノエのことですが・・・」 他のメンバーの目を気にしながら私に身を寄せた弁慶さんは、声を潜めて忠告するように言った。 「あまり深く関わらないように。悪い奴ではないのですが、あかりとは合わないでしょう。誰彼構わず女性に手を出すヒノエにも、困ったものです」 「・・・私はヒノエくんが気に入りそうな綺麗なお姉さんではないですけど」 「ヒノエは、変わったものが大好きですからね。現に貴女は、望美さんとは別の意味で気に入られてしまいましたから」 真剣な弁慶さんの表情に、つられて緊張する。やはり存在を知られてしまったのは痛かった。似た世界の”この先の展開”を知っているとばれたら、どうなるのか。九郎さんたちに守られて意識していなかったが、それは世の中をひっくり返しかねない、危険な知識である。 「わかりました。極力、ヒノエくんには近づかないようにします」 「肝に銘じてくださいね。案外貴女は、熊野を案内してやるとか言われたら、ほいほいついていきそうですから」 相変わらずな私を信用していないその態度に、気持ちが下がる。 ―――弁慶に案内してもらえばいい。 不意に、敦盛さんの言葉が脳裏を掠めた。妙な具合に、話題が合致してしまったからだろう。 (ヒノエくんに案内してもらうより、弁慶さんに案内してもらう方が、嬉しいに決まってる) 心の中だけで呟く。しかしどうしたわけか、弁慶さんの顔を再び見たら、するすると勝手に言葉が飛び出た。 「弁慶さんが案内してくれるのなら、その心配はなくなると思います」 ・・・しまった、やらかした。 |