5 なんとヒノエくんも、八葉のひとりであるらしい。八葉が揃ったと目を輝かせる白龍とは対照的に、ヒノエくんはあからさまに顔をしかめた。 「それ・・・まずいな」 望美ちゃんの誘いにも、難色を示す。彼はかなり望美ちゃんを気に入っていたようだけど、同行はさけたいらしい。 (やっぱり・・・熊野水軍の頭領だからだよね) こそこそとヒノエくんから距離をとりつつ、考える。彼の招待に気付いているのは、私と弁慶さん、そして敦盛さんくらいだろう。流石の景時さんもまだ思い至らないらしい。 熊野は、あくまでも中立でいたいのだ。源氏と平家、今のところ勝敗は五分五分といったところ。敗者に味方すれば、すなわち熊野の滅亡を意味する。 (私の知っている歴史では、熊野ははじめ平家につく・・・そしてその後、源氏に願える) 詳しい年代までは覚えていない。でも義経が活躍し始めるのは、源平の騒乱としては後半部分だ。だから、この時点で熊野が源氏方についてもおかしくはない。 (でも・・・ここは歴史の世界とは違う) 今まで何度も、その違いを見てきた。同じなのはあくまで大枠のみ。差異は怨霊の存在だけではない。三草山の山火事や敦盛さんの合流がいい例だ。 (今のところは同じ道筋でも・・・この先、いくらでも異なる結果へと逸れる可能性はあるんだ) そして、もし熊野が源氏に着かなければ。平家の優勢は確実だろう。そう考えただけで、冷や汗が止まらない。 バーチャルでも小説でもない。今現実に、私は源氏軍にいるのだ。源氏が負けるようなことになったら、何もかも終わりだろう。 「また案内してやるよ」 一通り会話が済むと、ヒノエくんはキザに笑って姿を消した。文字通り一瞬で消えたヒノエくんに目を丸くすると、敦盛さんは苦笑した。 「大丈夫だ、木の上に飛んだんだ」 本宮を目指して一行は再び歩き出す。 私はなんとなく、敦盛さんと肩を並べる。敦盛さんとはあまり会話したことはないが、一緒にいて落ち着ける人だ。平家は貴族だし私は八葉ではないし、関わりにくいかなと思っていたのは最初だけ。源氏軍にいまいちとけ込めきれない者同士、妙な親近感すらわくのだ。 (弁慶さんとも仲、良いし) 旧知の仲であるとは聞いていたけど、敦盛さんも熊野の縁者とは、驚き。 一旦山道を逸れ、比較的穏やかな道に入ったところで話題を振ってみた。 「敦盛さんは熊野の名所とか、やっぱり詳しいんですか?」 「ああ。昔、ヒノエに散々振り回されたんだ。あかりは熊野に興味があるのか」 「はい。元の世界でも行きたいと思いつつ、機会がなかったから・・・」 今も、熊野水軍やら平家やらがなければ、もっと楽しめたと思う。思いのほか頼朝公の命を遂行するのは大変そうだ。 敦盛さんは、多少名所も寄れるだろうと言った上で、付け足した。 「あかりは弁慶に案内してもらえば良い。私よりもずっと詳しいし、きっと喜ぶ」 「弁慶さんが案内して楽しいのは、望美ちゃんとか綺麗なお姉さんですよ。私は、女として見られてないので」 「そんなことはないだろう。弁慶とあかりは恋仲ではないのか?」 「あ――・・・まぁ、でも、表面上というか」 「・・・・・・?」 |