3 「なんだ、あんたか。悪いが野郎は目に入んないんでね」 立ちはだかった弁慶さんに、ヒノエくんは悪態を吐く。どうやら顔見知りらしい。望美ちゃんがそれについて尋ねると、困り顔で誤魔化していた。 「知り合いといいますかねぇ・・・まあ、察してください」 弁慶さんは熊野出身と聞いていたし、昔馴染みなのだろう。 「ふうん・・・。で、その子はあんたのいい人ってわけ」 隠れるように立っていた私は、ヒノエくんに覗き込まれてびくりとした。天真爛漫な彼の態度に、なかなか慣れそうにない。 「違っ」 直球な質問に思わず否定し、弁慶さんの外套から手を離す。場面の展開についていけず、掴んだままだったせいで少し皺になってしまった。 けれども当の弁慶さんは、笑ってそれを訂正する。 「ふふ、何を照れているんですかあかり。その通りなのだから、否定する必要はないでしょう」 お馬鹿さんですね、と頬をつままれた。第三者から見たらさぞ仲睦まじく見えるだろうが、しかし、じゃれるにしては力の過剰に込められた指先に悪意を感じる。言葉にするのなら、余計なことは口にせずただ黙っておけ、だ。 「へえ、珍しいじゃん。余程本気の相手なんだ?」 「僕を気にするより、君自身早く身を固めたらどうですか」 「あんたみたいに切羽詰ってないから、いいんだよ」 軽口を叩き合う二人があまりに親しげなので、一同は唖然としてそれを眺めていた。すると弁慶さんは咳払いをして、私を前へ押し出す。 |