他者からの見解


弁慶の補佐をしている少女がいる、と聞いた時、敦盛はとても意外に思った。


「私、熊野来てみたかったんです。願いが叶って良かった。思ってたより、ずっといいところです」


はにかむような表情を浮かべて言う彼女、あかりは好奇心に溢れた瞳で上機嫌に話す。あかりは、神子と同じ世界から来たのだという。しかし神子と違い"役割"のない彼女は、弁慶専用の部下として働いているらしい。
敦盛は熊野で育ったため、昔は弁慶ともよく顔を合わせていた。熊野の男の特性なのか別当家の血が騒ぐのか、それは定かではないが、彼が女性にとても優しく接するのも知っている。だが同時に、計算高く食えない一面があることもわかっていた。敦盛は、弁慶がただの善意から少女を保護などしないだろうと思ったのだ。


「ヒノエくんじゃないけれど、海も山も楽しめるのは、いいなぁ。敦盛さんのお勧めはあります?」

「ああ…熊野は建築物も良いと思う。きっとあかりも、気に入るだろう」


敦盛のあかりに対しての印象は、勤勉家である。神子も好奇心旺盛だが、あかりの興味は学問や文化、政治といった方にあるようだった。敦盛が笛ができると知って、雅楽のことまで根ほり葉ほり聞かれたのには面食らった。
だが、なるほどとも思ったのだ。このような女子ならば、弁慶殿も気に入り部下にしたのだろうと。


「そうですよね、熊野詣が盛んになるくらいだもの。楽しみだなぁ」

「よく言いますね。あの程度の山道でひぃひぃ言っている貴女が、この先もついてこれるんだか」


後ろからやってきた弁慶の、ひやりとした視線と言葉に敦盛はびくりとした。口元には笑みを湛えているが、その目はまるで笑っていない。
弁慶はある一部の人物に対して、このような表情を向けることがある。敦盛はヒノエがその対象になっているのを見たことはあったが、彼自身は向けられたことがなかった。

(もしかして、私があかり殿と親しげにしているから不快に思って…?)

が、弁慶の視線は敦盛には向けられいない。まっすぐ、あかりを射抜いている。



「あんまりはしゃいで、敦盛くんに迷惑をかけないようにして下さいね。僕が恥をかきます」


九郎やヒノエに対しても、これほど強い口調では言わないのではないか。弁慶はこの少女を憎んででもいるのか。――そう、勘ぐってしまう程だ。敦盛は背筋に寒気を感じながら、恐る恐る少女を見た。もし、泣いていたらどうしよう。
しかしその心配は杞憂であったようで、あかりは何ともなさそうに、むしろ楽しそうに答えた。


「弁慶さんのお勧めも沢山あるんでしょう?」

「ええ。あかりにお見せするのが勿体無いくらいに。貴女はすっかり気に入って、帰りたくなくなってしまうかもしれませんね」


嫌みっぽい弁慶の口調。だが、よく聞けばその声色に刺はない。あかりはそれを知ってか知らずか、明るく言った。


「私は、それでもきっと、京の方が好きだと思います」

「なぜですか?」

「だって、弁慶さんもそうでしょう。熊野もいいけれど、京の水の方が合っている」

隣で聞いていた敦盛は、息を飲んだ。あかりは、弁慶のことをよく見ている。


「すごくいいところだけれど、そこに自分の居場所があるとは限らない。たまにいくくらいが、ちょうどいいと思います」


そうか、弁慶はあかりが役に立つ部下だから面倒みているわけでも、保護対象だから構っているわけでもないのだ。きっとあかりと居るのが心地良いから、よく自分を理解してくれる相手だから側に置いているのだろう。


有り体に言えば、お似合い、なのである。



120211
あくまで敦盛さんから見た、二人の関係。弁慶さんお誕生日おめでとう!



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