協力関係


源義経といえば、私の世界では英雄のようなものだ。彼の周りには勿論、同じように知った名前はいつくもあったけれど、やっぱり彼は格別である。
けれどその知名度の高さに反して、意外にも、彼は話やすい人だった。


「九郎さん…!弁慶さんどこに行ったか知りませんか……!」

「なんだあかり、またか」

「雑用終わったら来るように行ったくせに見当たらないんですううっ」


仕事が一段落したのか、梶原邸の庭で鍛錬に励む九郎さんに私は文字通り、泣きついた。源九郎義経、後世に英雄として名を残すのであろう青年は呆れたように息を吐く。またか、と言われるように私は頻繁にこうして屋敷内を走り回っているのだが、それも仕方のない話。弁慶さんの命令は最優先しなければ、後が怖いのである。


「あいつは、町の様子を見てくるとか言ってたぞ。そのうち戻ってくるだろうし、此処で待ってたらどうだ」


九郎さんは言いながら、縁側に腰掛ける。彼も休憩するようだ。私もその言葉に甘えて、弁慶さんを待ってみることにした。


「それにしても、お前よく頑張ってるな。俺だったらあいつの雑用なんて、堪えきれん」

「あはは、自分でも思います。弁慶さんは厳しいから」


初めてあった時から九郎さんは、私の弁慶さんからの扱いを心配してくれる。彼曰わく、異世界から来たという私を気づかっていることもあるが、弁慶さんと長い付き合いだからこそ余計に気にかかるのだとか。
一見、弁慶さんは人当たりが良く物腰の柔らかい、優しい人だ。しかしその実、部下に対してはスパルタだというのは既に承知済みである。


「…厳しいけど、いつも正論だから納得させられちゃうんですよね」

「確かに。あいつには、俺も言い負かされてばかりだな」


八葉の中で弁慶さんが厳しく接するのは、今のところ私と九郎さんくらいだ。私は部下だからだが、九郎さんはきっと、弁慶さんが気兼ねなく接することができる相手だからだと思う。九郎さんも、弁慶さんは特別信頼しているようであるし、二人にしかわからない絆があるのだろう。

理由はともかく、そんなことから私の心労を一番察してくれるのは九郎さんなのである。だから九郎さんはよく相談に乗ってくれるし、アドバイスもくれる。たまにさり気なく庇ってもくれる。かといって特別親しくもない。兄貴分とでもいうのだろうか、その距離感が心地良いのだ。


「九郎さん、凄く頼りになります。話やすいというか、助かってます」


不意に、日頃の感謝を伝えたくなってそう言うと、九郎さんは戸惑ったように頭を掻いた。


「そ、そうか?」

「望美ちゃんも良く言ってますよ。九郎さんは格好良いって」

「! そうか…!」


赤くなる頬。分かり易く照れる九郎さんが微笑ましい。


「さっき望美ちゃん、向こうで剣の稽古してましたよ。後で見てあげたらどうです?」


彼にそんな提案をしながら、思う。
私が弁慶さんについて相談に乗って貰うかわりに、私は彼と望美ちゃんの相談に乗りたい。二人が好き合っているのは一目瞭然であり、二人が結ばれればいいのにと私は願っているのだ。


きっと九郎さんには私が協力しますからねと、改めて決意したのだった。



111109
九郎さんハピバ!




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