笑顔で牽制


「そういうことで、僕と彼女は交際することになりました」


夕餉の席でのことだ。珍しくその日、弁慶さんは機嫌が良さそうで始終にこにこと穏やかな笑みを浮かべていた。仕事が滞りなく進んだからだろうか。腹の色が見えるような黒い笑みじゃなくて、いつもそうやって笑えばいいのに。
そんな風に思っていた矢先、爆弾は投下された。私が摘まんでいた魚を取り落とすのと、望美ちゃんや朔ちゃんが歓声を上げたのは同時だった。


「えええっびっくり〜!!!」

「驚いたわ!」



男性陣も目を丸くして、口を開けたまま硬直している。唯一、動揺していないのは白龍くらいである。


「へえ、菅原やるじゃん」


ややあって、有川が感心したような声を上げた。その言い方がいかにも現代の若者っぽくて、ここは平安末期のお屋敷なんかではなく、高校の教室だっただろうかと一瞬錯覚する。


「言われてみりゃあ、二人はいつも一緒に居るよな」

「確かにね〜。弁慶さんの隣にあかりが居ないと、違和感だよね」


女の子たちの反応もまた、女子高生のノリ(朔ちゃんも年齢的には高校生なのである)なもんだから、余計にそんな気がしてしまう。ただし、私は恋愛事に疎いタイプであり、こんな風に集団で吊し上げられるような目にはあったことないが。


「皆さん、僕のあかりを宜しくお願いしますね」

「べ…弁慶さん!変なこと言わないでくださいっ!」

「ふふ、照れてるだなんて可愛いな。でも、当然の対処でしょう」


驚きと羞恥で真っ赤になって慌てる私をそのままに、弁慶さんは硬直する男性陣を一瞥した。彼らは何やら複雑な表情で弁慶さんを見、そして憐れむような目で私を見た。何故憐れみの目なのだ、それでは身売りでもされた気分しかしない。


「ははん、成程な〜」

「え…何?何を納得してるの?」


その、有川の意味あり気な呟きに対して突っ込むと、隣の弁慶さんが何やら含んだ笑顔を彼へ向ける。


「…将臣くんはこの子と親しくしていたんでしたね」

「親しいって程でもねーよ。既に俺よりも、あんたの方がこいつと居る時間長いとおもうぜ」

「貴方の事はよく、あかりから聞きますよ」

「誓って、菅原とは何もねーからな」


かみ合ってるのか、合ってないのか分からない会話。その真意はわからなかったが、弁慶さんは満足したのか、笑顔を貼り付けて私の頭を撫でた。そんな行動めったにされたことないのに、神子たちに「いつもそんな風なのね!」という生ぬるい視線を向けられる。断じて違う。
というか有川はそんなに私との関わりを否定したいのだろうか。そりゃあ、まあ、ちょっとした知り合いにすぎないのだが、改めて言われると少し虚しい。


「どういうこと?」

「望美やらお前やら、俺には手が焼ける妹分が沢山いるってこと」


首を傾げて問い詰める私をよそに、有川は呆れたように笑った。




110922
くれぐれも僕の女に、手も口も出さないでくださいね。




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