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「――そう、でしたね。貴女が好きなのは僕だ」


永遠に続くかと思った沈黙は、弁慶さんの嘆息で破られた。しかし、途端に空気が変わったことを感じ、私は彼から身を離す。が、弁慶さんに腕を掴まれて再び引き寄せられた。


「ならば、どうします。僕を手に入れてみますか?」

「…!」

「貴女は僕が望美さんに惹かれているといった。確かに、それは否定しきれない」


いつかの時のように顎を掴まれる。


「でも恋慕ではない。それも事実」


けれども今の弁慶さんは、笑ってはいなかった。怖いくらいに真剣な眼差しで、弁慶さんは私み見つめる。そして、彼はとんでもない言葉を口にした。


「あかり。僕と男女交際しましょうか」


嫌ではないですよね、となんでもないように彼は言う。私はあまりの衝撃に息を詰まらせるも、意図の読めない彼の言動に、冷静さを取り戻した。


「…馬鹿言わないでください。好きでもない女性と付き合う程あなたは落ちぶれてないでしょう」

「ええ、御陰様で」


でも、と彼は続ける。


「気づいたんです。あかりが欲しい」

「くだらない冗談はやめて下さい」

「冗談ではありません。…真実とは限りませんが」

「…」

「恋慕とは違うかもしれない。でも、貴女が気になって仕方がないのは確かです。野放しにするより、繋ぎ留めたい」


飾らない言葉、偽りのない表情。真剣な目が、彼がふざけているのではないということを示していた。だけれど、弁慶さんの言葉は信じられるものではない。答えに窮し、ただ見つめ返した私に彼は顔を寄せる。そして、そのまま。


「弁慶さ……っ」


有無を言わさない素早さで重ねられた唇。拒む間も、隙も与えられなかった。余りに突然すぎて、初めてだったのにと憤ることすら忘れていた。
ただ、驚愕して口元を押さえた私に、彼はさあ手に入れてみろと、挑発的な視線で微笑む。


「あかり、これから宜しくお願いしますね」



110507



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