お似合い


いつも、幾つかの道具を風呂敷に包んで持ち歩く様にしている。筆やメモ帳など些細なものだ。少し休憩時間を貰った私は、袈裟がけに背中に括りつけていたそれを解き、中から和綴じ本を取りだした。
すると、丁度稽古を終えたらしい望美ちゃんがやってきて、隣から私の手元を覗き込む。


「わー、すごい、それ読めるんだ…」

「コツ覚えれば簡単だよ。だって、基本的に日本語だもん」

「えー、文法違うでしょ?」

「違うって言っても、基本は学校でやった古文だから」


望美ちゃんも慣れればできるよと続けると、望美ちゃんはばつが悪そうに苦笑いして頭を掻いた。


「あはは、苦手だったんだよね」


こういうときの、望美ちゃんには少しあこがれる。自分の分からないことは分からないと素直に言えるのは彼女の美徳だ。


「どんな内容?」

「雨月物語っていうお話だよ。幽霊が出てきたりとか、そういう不思議系の逸話が集められたものなんだ」

「あかりは偉いなあ。ちゃんとこの世界でも勉強してる」

「…私は望美ちゃんみたいに神子でもないし、戦えもしない。せめて、得意分野でくらい頑張らないと申し訳ないって感じだよ。それに、文章も歴史も好きだから」


有川弟のように弓道かまたは剣道か、何かできればよかったのにと思う。今、怨霊と対峙する時、私は皆の後ろに立ってるしかないのだ。それはとても情けないことで、でも、その劣等感に後押しされてるから私はここまで頑張れるのかもしれない。


「でも、この本は勉強じゃなくて趣味。元々現代語訳で読んだことあったから、古語読解の練習にもなるかなとは考えたけどね。ちょうど、弁慶さんが貸してくれたから」

「へえ!良かったね!!」


弁慶さんの名前が出たとたん、望美ちゃんはきらきらと目を輝かせた。少し、しまったと思う。


「部屋にあるものならお好きにどうぞって感じだから、すすめてくれたとかじゃないよ?」


一応、そう断ってみたけれど望美ちゃんは満面の笑みだ。彼女は私と弁慶さんをもっと、親しくさせたいらしい。確かに私は弁慶さんに興味…うん、興味と恩を感じていて近づきたいとは思っているけど、あの弁慶さんが相手では大分辛いものがある。まず、甘い展開は訪れないだろう。


「部屋、入ったの?」

「入ったよ?」


以外にも、望美ちゃんが食いついたのはそこだった。てっきり「二人っきりで私室!何もなかったの?」とか聞かれると思ったけど。あと、何故だかわからないが、心なしか彼女の表情が硬くなった気がした。


「す、凄くなかった?」


恐る恐る尋ねる望美ちゃんに、私は笑い返す。


「ああ、すっごいよね!」


先日、訪れた弁慶さんの部屋を思い返す。


「あんな値打ちモノばかり、正倉院にも負けないんじゃないかって思っちゃった。やっぱり比叡山とのつながりがあるって大きいのかなぁ…この時代にしか存在しない書物も沢山ありそうだったし、いつか、もっとじっくり見させてもらいたい…。もう、なんか感動しちゃった!」


思わず拳を握りしめて感動の気持ちを熱弁すると、望美ちゃんはとても微妙な顔をした。するとその時、後ろから有川譲が現われる。


「ほら、言ったでしょう」

「うん。譲くんの言う通りだった」


顔を見合わせる二人に、私は首を傾げる。


「え、何の話?」

「大したことじゃないよ」


すると望美ちゃんはにっこりと、天使のような笑顔を浮かべて言った。


「あかりと弁慶さんって、お似合いだよねって話」




お似合い

(それ、喜んでいいの?)


ゆかしがる、の後日談。
110302



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