驚くことに、彼は二年程前からこの世界で暮らしているらしい。
彼、有川兄――将臣くんは、望美ちゃん譲くんと同時にこの世界に流されたのだという。しかし時空の狭間で二人とはぐれ、その為か一人だけ先に流れ着いたのだ。


「そりゃあ焦ったけどな。人間、言葉さえ通じればなんとかなんのな」


当初は訳がわからなくて混乱したが、それからは助けてくれる人も居て、二年の間で随分ここに順応したと将臣くんは語る。彼は元々行動的で頭も悪くなかった。性格も気さくなので、それが功を奏したのだろう。


「望美や譲とは会えると信じてたけど、まさか菅原がいるとは予想もしてなかったぜ」

「私も、自分が一番びっくりしてるよ」


望美ちゃんや譲くんに比べたら、将臣くんが一番面識がある。それでも、顔見知り程度の同級生とこんな再会を果たすとはお互い思ってもみなかった。お互い奇妙な縁に苦笑いを浮かべる。
望美ちゃんや白龍から八葉の話を聞いた将臣くんは、厄介なことになったと困ったように頭を掻いた。怨霊がいるこの世界には慣れていたようだが、八葉関連の話ははじめて聞いたのだ。


「お前も八葉かなんか、なのか?」


問われて私は首を振る。


「ううん。私は神子とは関係ないみたい。なんで私が来たのか、白龍もわからないんだよね」

「それ、かなり不安だろ。辛くねぇ?」

「まぁ、私も私なりにこの世界で生きていこうかなって思ってるし問題はないかな」


実際はかなりしんどかった。私は望美ちゃんたちのように、はっきりと理由がわかるような飛ばされ方ではなかったのだ。
白龍と話すまでは、私にも何らかの理由がある筈だと信じていた。しかし白龍は首を傾げた。白龍が望美ちゃんを飛ばした時に近くに居たわけではないから、一番考えられる"その時に巻き込まれた"線は消えた。

それでも笑っていられるのは、ここが私が好きな"歴史"によく似た世界だから。無理だとわかっているのにも関わらず、その時代に実際に行ってみたい、と考えてしまうのは歴史好きの性だろう。こんな形だが、その願いが叶ったのだ。幸い知り合いもいたし、仕事も貰えた。
私は、恵まれていると思う。


「菅原は案外強いのな」


将臣くんの言葉に曖昧にため息を吐く。強いのではなくて、諦めが悪いのだ。頑張っていればどうにかなると、信じていたいだけ。


101119




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