――好きなんでしょう


弁慶さんの言葉が脳内でリピート再生される。好きなんでしょう?誰を。好きなんでしょう?誰が。僕を好きなんでしょう?私は、弁慶さんを、好き、なのだろうか。
そのように意識したことはなかった。確かに綺麗な人だとは思う。少なくとも私のいた世界にはいない、紳士的な人だとは思う。頭もいい。性格は少し癖があるかもしれない。

彼は魅力的な男性だ。素敵な人だ。

でも好き、という感情の定義がわからない。例えば望美ちゃんが九郎さんに感じているのは、どんな好き?私は同じような好きを弁慶さんに感じているのだろうか。





「恋?」


私の問いかけに、朔ちゃんと望美ちゃんは顔を見合わせた。恋ってどんなものだろう、なんて唐突すぎたかもしれない。でも朔ちゃんは何も聞かずに少しだけ手を止める。


「一緒に居て楽しいだとか、嬉しいだとか、幸せだとか。明確に形はないけれど、そういうものじゃないかしら」


和菓子をつまみながら、望美ちゃんも考えるように宙を見た。


「うーん、どきどきしちゃうよね。その人のことばっか気になっちゃって、なんだか恥ずかしくて」


答えながら自分の想い人を思い出したのか、望美ちゃんは顔を赤らめる。


「笑顔とか、見てるだけで元気になれるよ」


望美ちゃんは恋する女の子そのままだ。彼女を見ていると、自分の感情に自信がなくなる。少なくとも恋だなんて、甘酸っぱい感じではない。


「あとは…そうね。会えないと寂しくて、悲しいわ」


ふと、朔ちゃんが声のトーンを落とした。暗い影を背負ったような彼女の表情に、私は瞠目する。


「わかる。他の女の子と話してるの見ると嫌な気持ちになるし」


望美ちゃんも思うところがあるのか、ため息を吐いた。しんみりとしてしまった場を緩和させるように、私は「ありがとう」と話を切り上げる。


「あかり、恋でもしたの?」

「……わからない」


俯き、覗き込んだ湯のみの中に泣きそうな自分の顔が映った。朔ちゃんは静かに微笑み、私を励ますように言う。


「難しく考える必要はないわ。なんとなく気になるとか、最初はそんなものよ」


気になる、といえば気になっている。なんだかんだで弁慶さんと過ごす時間は楽しみで、辛くあたられると悲しい。望美ちゃんに視線を向ける彼を見ているのは、苦しかった。大切に、九郎さんと望美ちゃんを見守る姿は痛々しい。報われないのに、それでも望美ちゃんに惹かれる弁慶さんを、見たくない。

(私は多分、弁慶さんを好きだ)

でも、それを知ったところでどうしろと言うのだろう。





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -