玄関先で朔さんに用件を告げて、ひと息吐いた。さっさと手紙を渡して、誰にも遭遇しないうちに帰ろう。しかしその束の間の安堵は、戻ってきた朔さんによってあっさり打ち砕かれた。


「え、居ないんですか?!」

「ごめんなさいね。丁度入れ違いに、出掛けられたみたいなの」


しかも、行き先すら伝えてないらしい。いっそ朔さんに手紙を預けて退散したかったが、それでは急ぎで私が遣わされた意味がない。仕方ないので、この辺りを見回りつつ一度堀川屋敷に戻ろうと思った。が、退出しかけたその私の手を、急に朔さんが引いた。


「弁慶殿はすぐに戻られると思うの。少し上がって、待っていればいいわ」

「い、いや…あの、ご迷惑だと思いますので…」

「遠慮なんかしないで。私たち、同じ位の年でしょ。源氏方の女の子は私と貴女と、望美だけだもの。貴女とも仲良くなりたいって、さっきも望美と話してたのよ」


にっこりと、それは菩薩様のごとき笑み。朔さんのストレートなお誘いは、なるべく関わり合いたくないと思っていた私の思考とは見事に対立していた。しかも、私が女だとわかっていたようだ。私は決して男性に間違われるような筋肉も身長もないのだが、この服と源氏軍にいることで小柄な幼い少年に見えているらしい。現に、軍の大半の人はそう思っているにちがいない。
願わくば春日さんにもそう見えますように…なんて仄かな願望は、叶わなかったようだが。


「今お茶にするところだったの。美味しいお菓子もあるのよ。さ、上がって」

「は……はぁ………」


朔さんの満面の笑みに逆らえないまま、私は背を押されて玄関をくぐったのであった。





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