どんなに気が乗らなくても急ぎと言われたからには躊躇う間はなく。碁盤の目のごとく綺麗に区切られた道は、曲がり角さえ間違えなければ迷う要素さえないので、私は難無く梶原邸に到着してしまった。

しかし、立派だ。まさに武家屋敷。どっしりとした門構えは門番さえいないものの、そこから声を掛けるのなんて、恐れ多く思えた。

(入りにくい要因は、別にあるけれど)

どうしようかと思い浮かべた顔は、景時殿ではなく神子様のものだった。
春日望美。名乗られるまでなく、彼女のことは知っている。何故なら、私は彼女と同じ学校、同じ学年に所属していたのだから。

(しかも後ろにいたのは多分、有川弟…)

背の高い眼鏡の男の子。春日さんと親しい有川将臣の弟だ。どちらかと言うと軽そうな有川兄と比べて、弟の硬派なイメージがまたいいのだとか…そんな噂が広く、出回った時期がある。有川兄弟は、兎に角目立つ。文武両道の美形兄弟、しかも家はでかいらしい。そして、彼らに囲まれるようにいる春日さんにも注目がいくのは、当然といえば当然。

実際、私は春日さんと直接の関わり持ったことはない。私は彼女の隣のクラスで、精々廊下ですれ違う位の関係である。

(目立たないタイプだし、きっと、春日さんは私の事知らないよね。それなら気が楽なのだけれど…)

神子、八葉という役割を与えられている彼女たちと違って、私には自分の立ち位置が掴めきれてない。完全に、時空単位の迷子だ。
そんな状態で同じ世界にいたよしみ、と馴れ合うのもどうかと思うし、余計居づらくなりそうだ。せっかく上手く源氏軍に入れてもらえた、だからこのまま、ひっそりと自立したかった…が。

(弁慶さんが、余計な事を言っていないだろうか)

理由はわからない。けれど、彼は私をいつも、冷たい目で見る。あの視線を浴びると、緊張に身体が強張ってしまうのであった。

(…うう、やっぱり入り辛い)

私を疑う景時殿に、滞在している春日さんと有川弟。弁慶さんも何を考えているのかわからないし、極めつけはこの、立派すぎるお屋敷。

(誰か出てこないかなぁ。できれば、源九郎義経とか)

思ったところで都合よく彼が出てくるわけはない。いよいよ途方に暮れたところで、肩を叩かれた。

「うちの前でどうしたの?貴女、弁慶殿のお付きの方でしょう。用があるなら入っていいのよ」

「さ…朔さん…」

にこりと笑む朔さん、景時殿の妹御が女神に思えた。


100824




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