3 * 腰のあたりまで伸ばした髪をなびかせて、神子だと紹介された女の子がこちらを見た。好奇心に満ち溢れた瞳は少しも物怖じする様子がなくて、自信いっぱいにまっすぐとした立ち姿で。常にどこか一歩引いてしまう私からすれば、羨ましい強さを持っていた。 ――流石神子だ、と思う前に驚きでとっさに目を伏せてしまった。私は、彼女を知っていた。 「梶原殿の、お屋敷ですか…?」 「ああ。どうやら大将殿の客人が、そちらに滞在しているらしくてな。弁慶殿に、急ぎの手紙なんだ。届けてくれないか」 「…わかりました」 源氏兵から包みを受け取った私は、一緒に手渡された地図を見てため息を吐く。どうやら、本格的に弁慶関連専用パシリとして認識されたらしい。 宇治川の戦いの最中に軍に紛れ込んだ私は、弁慶さん付きの補佐だと紹介された。それからは適当に割り振られた雑用をこなし、戦いが終わりに近づくと予備軍の方を任されて、ひたすら彼らに従事していたのだった。 (完全に放置だもんなぁ…予想、してたけど) 大将である九郎さんについていった弁慶さんとは、あれ以来まともに言葉を交わしていない。ただ風の噂によると、大将共々、天から降り立った神子様にご執心らしい。 神子様、つまりは春日望美嬢に。 梶原屋敷は、参謀役として鎌倉殿に使わされた梶原景時殿の屋敷だ。景時殿には一度少しだけお会いしたけれど、私には彼がどのような人なのか、いまいちはっきりしていない。頭の良い人なのだろうとは思う。弁慶さんが一言「急に同行することになった」と私を紹介しただけで、はっきりと言えない事情を有していると察してくれたようだ。ただ―― (景時殿は私を信用していない) 人好きのする笑顔で自己紹介してくれた景時さんの、目は決して笑ってなかったのだ。 梶原景時は、私の世界の平安末期にも実在する人物だ。平家筋ながら頼朝を助け、のちに幕府の重要なポストを収めた。 (鎌倉殿の、懐刀…か) 私は少し、彼に苦手意識を持っている。 |