鈴の音と共に現れた白龍と名乗る少年に誘われて迷い込んだ先は、平安末期に似た異世界だった。「京」と呼ばれる都は元居た世界の「京都」によく似ていたけれど、白龍曰く、違う次元のもので同一ではないらしい。
過去へタイムスリップしたのではないという根拠は、この世界が怨霊が蔓延る、下手なホラー映画まがいだという所だろう。何はともあれ、望美が託された白龍の神子というポジションは、怨霊をどうにかできる救世主。根が素直なのが幸いしてか、望美は神子の役目を違和感なく引き受けた。運命と戦うために剣を取ったのである。


「でも、いきなり異世界から来たって言って、簡単に信用してくれるなんて思わなかったな…」


譲はぽつりと、つぶやいた。
宇治川で白龍、朔と出会い譲と再会した後、望美は源氏軍の大将である源九郎義経と対面を果たした。感情の起伏が激しい九郎に思わず喧嘩腰になってしまったが、どうにか彼らへの同行を許されたのだ。


「確かに。普通は疑うよね」


黒龍の神子の朔が居るのだから、望美が白龍の神子だというのも信じられない話ではない。九郎と弁慶が望美の八葉だということをあっさりと納得したことも、神子の力が信じられているこの世界では不思議ではないのかもしれない。
けれど、望美たちが異世界きたという話は別だ。朔に話したときも驚いていたから、頭の堅そうな九郎がすんなり信じてくれるとは思わなかった。自分でさえ、いまだに納得のいかない気がする。


「ふふ、白龍の神子は代々、異界よりやってくると書いてある文献がありましてね。僕はそれを知っていましたから特に驚きはしなかったんですよ」


先を歩いていた弁慶が、振り返って笑う。
宇治川の戦いが終わり、丁度京へ向かう所だった。何かと忙しい九郎や景時に代わっていろいろ教えてくれるのは弁慶で、望美は物腰柔らかな雰囲気にすっかり気を許していた。


「弁慶さんは神子について詳しいんですか?」

「昔…それなりに調べましたからね」


含みのある答えに望美が首をかしげると、譲は眼鏡を押し上げながら納得のいかない顔で眉を寄せた。


「それでも順応が早いです。文献に書いてあることなんて御伽噺だと思ってもいいのに」


譲の疑問はもっともなものだ。この世界でも、一般的に異世界やら神子の力が信じられているわけではない。過去にいた神子という存在についてもあやふやで、真実性には欠ける情報も多い。ただ、怨霊が蔓延るようになってから、軍の中で「神子伝説」がまことしやかに囁かれ始めたのは事実だった。


「まぁ、九郎は僕が言っても信じるような男ではないですからね。実際、少し前だったら御伽噺にすぎないと一蹴していたでしょう。その彼があなたたちの言い分を信じたのは、先例がいるからです」

「先例?」


質問を続けようとした譲の声は、前方から発生したざわめきに打ち消された。どうやら、京へ到着したらしい。初めてみるこの世界の都は、咲き誇る桜がとてもきれいだと、望美は思わず感嘆の息を漏らした。





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