我ながら大それた、そして唐突な申し出だった。九郎義経と軍師は目を丸くして私を見る。私は、手を握り締めて続けた。


「雑用でも何でもいいんです、後ろからついて行かせてもらうだけでもかまいません、でも、一緒に同行することを許してはくれませんか?!」

「な、何を突然…」

「お願いします!どうか…どうか!!」

「そうはいってもだな!俺たちも遊びで来てるわけじゃ、」


九郎義経は、私の申し出に眉を寄せて反論した。総大将として、簡単に承諾することはできないのだろう。それでも私も譲ることはできない。死活問題である。九郎義経が気迫で押されかけた隙をたたみかけるように迫る。


「九郎。少し待ってください」


やんわりと、双方に待ったをかけたのはずっと黙っていた軍師だった。


「急にこんな世界へ放り出されて不安なのは、わかります。でもそこまで頼み込むからには、君の同行を許すことで何か僕たちに利点がなくては」


柔らかい口調。けれど、こちらの弱点を鋭く突いてくる。探るような視線に、慎重に言葉を選んだ。


「――私、私は戦に関しての知識には自信があります。私の世界の過去の戦についてなら、人並み以上には詳しいと思います」


この世界に来てから、ずっと考えていた。特殊能力なんて持たない自分のセールスポイントは、ひとつしかないと。


「どこまで同じかは分かりません。けれど似ているというのなら、私のこの知識、役に立つのではないでしょうか」


つまりは、情報を武器とする。異世界といえ"未来"から来たのだ。それは先の可能性を知っているということ。万が一全く異なっていても、少なくとも平安から近現代、800年近くの戦いの事例の知識がある。


「何なら、試して頂いても構わない。この宇治川合戦の結果を、予想しましょう」


これは賭だった。でも、そこまでする必要があった。私はなんとしても、彼らと離れるわけにはいかない。飛ばされた先が、源氏。異世界の存在を肯定する軍師。これは何かの運命だと思う。


「それは面白い」


軍師は、笑う。そして九郎義経を振り返った。


「良いでしょう。九郎、この子は僕が面倒を見ます。軍師補佐…見習いということにすればいい。それでいいですか」


九郎義経は驚いたように軍師を凝視する。彼は、淡い笑みを湛えたまま義経の視線を流した。


「…お前がそこまでいうなら、俺は反対しない」


やがてぼそりと告げられる。


「あ、ありがとうございますッ!!」


とりあえず、認められたらしい。第一関門は突破、と安堵すると九郎義経は投げやりに顔を背けた。


「礼なら弁慶に言え。それと、弁慶は厳しいからな。泣き言、言っても助けてやらん」

「――べん、けい?」


私が聞き咎めたのは軍師のものと思われる名前。自分の記憶が確かなら、源九郎義経の側近としてこれ程相応しいものはない。けれども、あまりにもイメージが違いすぎる。
まさか、と顔を上げると被った布の奥の瞳と目が合った。


「宜しくお願いしますね、あかりさん」



これがのちに私の運命を左右する男、軍師、武蔵坊弁慶との出会い。


100708




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