哀れな少女


源氏を裏切ったその直後。

あかり、そして捕らえた望美と共に屋敷を後にした。九郎たち源氏は、血路を開いてなんとか逃げ延びただろうか。被害は、どれだけ出ただろう。

――裏切った直後にこんなことを考えるのは、おかしな話であるが。


「それが源氏の神子か、武蔵坊弁慶」

「ええ、そうです。僕らの策を信じてもらえて光栄ですよ、忠度殿」

「仲間を裏切るような輩、信じてなどおらぬわ」

「ですが、僕の助けなくして源氏を撃退できましたか?それに、清盛殿もお喜びでしょう」


待ち構えていた平家武者――平忠度に、にこりと笑んでみせる。彼は嫌そうに顔をしかめた。
今回の作戦は彼が掛けあってくれたから、実現できた。昔馴染みでもあるし、それなりに好意的に思っているのだが、彼の方は違うようである。


「そちらの女子は?」

「僕の腹心の部下です。清盛殿には、特に伝える必要はありませんよ」


険しい顔の望美とは対照的に、背後で大人しくしていたあかりは、声を発することなくぺこりと頭を下げた。忠度も興味を失ったように、背を向けた。
全ては、作戦通り。あと少しで、想いは実現する。


「それでは船に来てもらおうか」


望美の手首だけは拘束したまま、ぞろぞろと忠度の後を追う。

この後、平家一行は清盛の待つ厳島へと向かう。そこで弁慶は清盛と対面し、望美は贄として彼に捧げられるのだ。

(その時が、勝負だ)

決して表情には出さず、にこやかに笑いながらも、心中は勝利への渇望で飢えている。

ふと背後に、温もりを感じた。
振り返ると寒さで頬を赤く腫らしたあかりが、こちらを見上げていた。温かく感じたのは、あかりが外套の背中部分を掴んだ為らしい。


「…冷えますが、大丈夫ですか?」

「私は大丈夫、です。それよりも弁慶さんが、寒そうだから」

「ありがとう、僕は心配ありませんよ。貴女が居てくれるから」


にこりと微笑むと、あかりは恥ずかしそうに俯いた。でも、本心だ。あかりが居てくれるからこんな冷たい心臓でも、愛を感じることができるのだ。

でもあかりには…悪いと思っている。

逃がしてやりたいと…僕から逃げて欲しいと何度思ったことか。彼女は、僕と居れば不幸せになる。それは確実なのに。

(逃がして、あげられない)

この手は彼女を傷つけながらも、あかりを求めて止まない。僕はそれを憂いながらもまた、彼女を独占する優越感に浸っている。

(望美さんが清盛殿の贄だというのならば)

きっとあかりは、僕に捧げられた哀れな贄なのだろう。


140127



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