私は、ぽつりぽつりと言葉を探しながら口を開く。弁慶さんは私に、任せたとばかりに微笑む。二人の視線を感じながら、私は簡単に事の次第を明らかにした。


厳島にやってきた弁慶さんの真の目的は、平家の…清盛が持っていた黒龍の逆鱗を壊すことだった。清盛はその力で怨霊を作り出していた、それを弁慶さんは知っていたのである。
怨霊を作り出した黒龍の逆鱗を破壊すれば、黒龍は復活し逆鱗から作られた怨霊は滅ぶはず。それが弁慶さんの推測だった。
だが、逆鱗を破壊するには、清盛にとって最も近い者になるしかない。清盛に近づけるのは平家軍の中でもより近しい者だけだったのだ。

だからこそ、弁慶さんは源氏を裏切ることにしたのだ。


「でも、平家に取り入り信用を得るために皆を…君まで…巻き込んでしまって僕は………グッ」


弁慶さんは、私の言葉に付け足すように呟く。しかし途切れた言葉の中に、不快な機械音にも良く似た音が、混じった。弁慶さんの、私を抱き寄せる腕にも力がこもる。私は少し、身を固くして彼に回した手を強めた。


「グ…ググ…」


強い圧力に抗うようなその呻き声は、弁慶さんの口端から、漏れ出すように発せられている。それを無理やり押さえ込むようにして、弁慶さんは苦笑した。


「―――くっ…もう、限界かな…あかり」

「…はい」


そのまま私たちは望美ちゃんから距離を取る。彼女は私たちの姿に、驚いたように目を丸くした。


「すみません。僕には、君に謝る時間も…残されてないらしい、…あかり」

「はい。望美ちゃん…私も沢山謝らなくちゃいけない、でも時間がないの。ひとつ、お願い。これを…貰ってくれないかな」


望美ちゃんは、私の差し出したそれを受け取る。いつも私が持ち歩いていた風呂敷…そして、その中の冊子。彼女はそれを胸に抱え、不安そうに私を見た。
私は、ほっと息を吐く。弁慶さんも同じように感じたみたいだった。


「望美さん…ありがとうございます。そこに僕とあかりからの…ほんの形ばかりの謝罪があります。それで、許してくれませんか」

「えっ、あかり、弁慶さん!?どこに行くの!」

「・・・この洞窟に鏡があったでしょ?八咫鏡が、必要なの」

「待って!その鏡なら私が持ってます!」


望美ちゃんはすぐに、ポケットを漁ると小さな鏡の欠片を手に載せる。
割れていて、持ってきたのだという彼女に、弁慶さんは納得したように息を吐いた。全く、望美ちゃんはまごうことなき白龍の神子だ。彼女は自身で気づかないままに、いつも真実のすぐそこまで迫る。それは時に危なっかしく、時に頼もしく、周囲の人を惹きつける。そして今回も、運は彼女に味方をしたようだ。


「望美ちゃん、もうひとつだけ、お願いしていいかな。その鏡を弁慶さんに、向けて」

「え…?」


苦しげに項垂れた彼の代わりに、私は頼んだ。


「…弁慶さんの身体には今、清盛殿がいる。具体的に言うと、清盛の魂が憑いている。この方法でしか、私と弁慶さんは彼を打倒することができなかった。だから…お願い。弁慶さんを、助けて」


以前弁慶さんは、湛快さんに身を守る観音像を作ってもらったというが、その加護があってもなお清盛殿は強かった。弁慶さんは自身に清盛を憑かせ、黒龍の逆鱗を破壊することまではできたけれど、これ以上、清盛の意識を抑え込めそうにないのだ。
限界が近づいている。早く、彼を消滅させてしまわなければ、逆に弁慶さんが取り込まれてしまうだろう。

それを裏付けるように「グ…ギギ…」と清盛の声が弁慶さんの口から、漏れ出す。


「ベンケイ…キサマァアア!」

「望美ちゃん…鏡を…!お願い、弁慶さんを、早く!」


割れた鏡は調和を崩す。清盛殿はこの鏡の力で復活を果たしたのだ。それは清盛に憑かれて、弁慶さんが得た知識だった。使わない手は、ない。


「八咫鏡が砕ければ…その身を映せば、陰陽の調和が取れずに清盛殿は消滅する!鏡を…弁慶さんに向けて…!」

「は、はいっ」


そして、望美ちゃんの手によって、ようやく全ての計画が完遂された。






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