弥山、その山頂に私たちは向かっていた。弥山は厳島の中央に聳える山であり、私の世界においても信仰の対象となっている山だ。
日が昇ってから、少しだけ予定が狂ったものの、私たちは二人手を取り合ってこの場所にやってきていた。互いに支え合うようにして歩く私たちの姿はさぞ滑稽だろう。でも、肌に感じる彼の体温を、私は酷く愛おしく感じていた。

山頂に着いたその時、見つけた姿に僅か安堵する。


「望美ちゃん、こんなところに居たんだね」


山頂にある洞窟から、姿を現したのは望美ちゃんだった。彼女は私たちに驚いたようにびくりとしたが、すぐに駆け寄ってきた。
その態度から、この期に及んでも彼女が私たちを信じているのだと感じる。それを、嬉しくも辛く思った。私は彼女の、そのような部分に内心嫉妬していた。その清らかさに、決して敵わないと思わされた。でも、同時にそんな彼女がとても好きで、憧れてもいたのだ。


「探したよ。さっき、牢獄に行った時に見当たらなくて…何かあったらどうしようかと思って…」

「あかり、弁慶さんっ一体何が起きたの…?!」


望美ちゃんの同様に、苦笑する。私たちは、事が終わってすぐに望美ちゃんを迎えに行った。しかし、彼女を閉じ込めていた牢獄は既に破られたあとだった。
望美ちゃんの行方は気になったものの、あまり時間はなかった。だからこうして弥山へとやってきたのだったが…これはこれで、丁度良かったかもしれない。


「怨霊は消え…平家の武士たちも…逃げた後だから――大丈夫…だとは思っていましたが…」

「牢を破ったと知った時には…さすがに焦っちゃった。ね、弁慶さん」

「ええ…我らが神子様は、美しいだけでなく強い」


私たちは顔を見合わせて微笑む。弁慶さんは平静を装いつつも、やはり少し辛そうだった。…私も、顔に出ていないと良い。彼が頑張っているのだ。私も、終わりまで耐えていたい。


「何があったのか…何をしたのか私に、教えて」


望美ちゃんの真っ直ぐな瞳を見返しながら、あと少し、と背筋に力を入れた。


「…望美ちゃんには、黙っているわけにはいかないよね。随分と迷惑をかけてしまったから」






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