2 それから、弁慶さんと私は清盛殿との謁見を許された。 私は弁慶さんの腹心の部下として、ご相伴に預かったのだ。私の同行を許可されたことに弁慶さんは一瞬身を堅くしたものの、すぐに腹を括ったらしい。口を開かないように、という条件で同行した。 「弁慶、久しいのう」 「お久しぶりです清盛殿。変わらずご健在なようで、なによりです」 「ぬけぬけとよう言いよるわ。裏切り者であるというに」 驚いたことに、清盛の姿は幼子そのものだった。 予め、弁慶さんから話は聞いていたものの実際目の当たりにするととてつもない違和感を覚える。幼子であるというのに、確実にこの人が件の清盛殿なのだというのが分かってしまう。重圧が、威厳が、それはもうビシビシと身体に突き刺さるようだった。 私は顔を上げるように言われ、彼を見上げる。清盛殿は目を細めて、笑った。 「お主が弁慶の…。弁慶、変わった趣味をしているな」 「そうでしょうか、お恥ずかしい限りですね」 「だが、お前が目をかけるということは何かあるのだろう?」 「いえいえ、単なる恋慕ですよ。僕もただの男ですから。…ですが、そうですね。彼女は異世界の戦術に詳しいので、さぞ清盛殿のお役にも立つことでしょう」 「それは、面白い。あかりとやら、精進するが良いわ」 「はっはい」 ここまでが、謁見時の話。 この夜、再び呼ばれた弁慶さんと清盛殿は遅くまで話していた。私は弁慶さんの付き人という立ち位置だったので、下座に黙って侍らせてもらっていたのである。 そしてあっという間に、弁慶さんは清盛殿の心の内にするりと入り込み、信用を得た。 少し、ややこしい話は省く。 とにかく弁慶さんの手腕は、見事しか言い様が無かった。厳島に来てから、僅か一日。普通に考えたら有り得ないスピードで目標を達成した。 弁慶さんの目標は、戦いを終わらせることだ。その為に、源氏を裏切って平家に寝返った。だけれど一つ、嘘を吐いた。彼は決して、平家が勝利するとは思っていない。平家が勝利を決めるまで、待つつもりはない。 全ては清盛殿に取り入るため。ひとつの目的を果たすため。 ――そう。清盛殿とその力の源の破壊に、成功したのである。 131021 |