屋島の戦いは、表面上は引き分け、しかし事実上平家の勝利で幕を下ろした。
ただし平家側としても、すっきりとした勝利ではなかった。

源氏軍の襲撃を免れ、早々に行宮を捨て退却していた平家。誤報に惑い平家の動きに築けず誘き出された源氏。双方にとって、今回の戦いは上手く衝突を避けただけで終わったという印象だ。
そして言うまでもなく、全ては私と弁慶さんが仕組んだことである。

事前に平家へ寝返りを打診し、その誠意を見せる為に今回の作戦で弁慶さんは源氏を裏切った。
――明確な形で九郎さんを裏切ること。手土産として白龍の神子を差し出すこと。
この二点が清盛の信用を勝ち取るために必要だと、弁慶さんが打ち出した策。

だけど、九郎さんたちを裏切り、部下を犠牲にし、望美ちゃんを人質に取ったことは決して許されることのない非道な行いである。
自覚しているし、実際裏切りの段階に来た時私の手は震え、目眩も感じた。唖然とする皆の顔を苦しく思い、犠牲にする部下たちの顔をまともに見ることはできなかった。


行動を、後悔はしていない。全ては最低限の犠牲で一刻も早く戦いを終わらせる為に必要なことだと、私は断言できるから。

熊野の地で、私は弁慶さんの願いを聞いた。
彼の過去、背負う業の重さ、償いの決意。好意を持ち、支えになりたいと思った人の支える荷物は、途方もなく重たいものだった。
全てを聞き、頭では理解していても、到底私なんかが肩代わりできるようなものではなかった。

それでも、私は弁慶さんの支えになりたいと願った。
荷物を代わりに背負うことは出来ない。でも彼の気持ちを和らげることくらいならできるんじゃないかと、必死だった。
嬉しいことに、弁慶さんも私にそれを求めたのだ。私に断る理由なんて、ひとつもなかったのだ。

大和田泊では、作戦の指揮を自ら買って出た。同じように手を染め、非情に徹することで少しでも彼に近づきたかった。京に着くなり打ち明けられた弁慶さんの作戦は、私への信用の証に間違いなかった。あまりに大胆な発想に驚いたし、彼の望む結末に胸を痛めた。
けれども彼の作戦の唯一の協力者に選ばれたことは、不謹慎にも嬉しくてたまらなかったのだ。

こうして、結果的に私は彼の全てを受け入れたのである。そうして今、この時彼の隣りを歩く権利を手にした。





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