九郎さんは、ようやく弁慶さんをどうすることも出来ないと悟ったらしい。
それでも最後の良心に縋るかのように、問いかける。


「弁慶…総門に残してきたお前の部下はどうした。彼らをも裏切ったのか?」

「とうに全滅しています。僕らが行宮を目指して進軍を始めた直後に…ね」

「共に戦った者たちを…そうも簡単に切り捨てられるのか!?」

「そうする他、道がありませんでしたから」

「弁慶ぇっ!お前だけは、許さん!!」


嘆き、憤る九郎さんの姿は痛々しい。言っていることが正しい分、尚更だった。しかし冷静で非情な弁慶さんに、そんな精神論では通らない。
今にも斬りかかりそうな九郎さんがいよいよ太刀に手を掛けたのを見て、私は咄嗟に二人の間を割って入る。


「九郎さん…貴方は正しい。でも弁慶さんを害することだけは私、許せないんです。この人を殺させはしない」

「あかり!お前まで裏切るのか?!」

「私に叛意はありません…が、弁慶さんが選ぶ道を歩むと、決めているから」


弁慶さんと捕われている望美ちゃんを背に、私は両手を広げる。九郎さんは苦い顔で唸った。
そのまま硬直しかけた場は、すぐに景時さんの声で再び動揺と緊迫に包まれる。


「だめだよ、九郎!これ以上、平家の軍を防ぐのは無理だ!」

「あいつの策にはまって全滅する気かい?オレは願い下げだぜ。退くなら今しかねぇだろ」


時間切れ、だった。まんまと誘き出され、背後を取られた九郎さんたち源氏軍には、もう敗走の道しか残されていない。


「弁慶っ!次に会うときは…この借りを返すからな」


最後に一声、叫んだ九郎さんはすぐに踵を返し、手際よく撤退していく。
残された私と弁慶さん、そして望美ちゃんは言葉なく彼らを見送っていた。


131001



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