懐疑 悪い人でないというのは、わかる。でも助けてくれたからといって手放しに信用できるほど、綱吉は純心ではない。 現に、手錠は掛けられたままだ。武器であるグローブも死ぬ気丸も奪われたまま。スパナという男はよくわからないし、助手子さんからも結局、有益な情報は得られなかった。 (油断させて入江に突き出すつもりじゃ・・・) 状況的に、そう思わなくもない。けれど、焦る気持ちに反して何故か綱吉は落ち着いていた。彼らが、自分の危険を顧みずに自分を匿っていると、確信したからかもしれない。 (でも、初対面の気がしないんだよな) 綱吉は、助手子を見つめて思った。 スパナは声が大人ランボに似ていると思ったから、馴染み易かったとわかる。けれどもそれ以上に、助手子には話したことがあるような親近感を持てるのだ。が、女性の知り合いなど殆どいないし、ましてミルフィオーレの隊員との繋がりなんてあるわけがない。身の回りの女性陣にも、彼女のようなタイプはいなかった。 (この状況にそぐわない、あの笑顔が引っかかるんだよなー・・・) その時だった。地面がぐらりと傾いた。 「うわぁっ」 大きな地震が起きたように感じた。綱吉は見事に床を転がる。そこかしこの機材も、派手に散乱した。 「スパナ、綱吉くん、大丈夫!?」 助手子はちょうど柱に掴まっていて、無事なようだ。 「お、俺は大丈夫です」 「・・・部品無くした」 「えええっ」 スパナの台詞に飛び上がり、一緒になって床に屈む。 綱吉はそんな二人を眺めながら、あることに思い至る。 (今なら逃げられるんじゃ・・・) すぐ近くに転がってきたグローブと死ぬ気丸。心拍数は跳ね上がり、綱吉は恐る恐るそれへ近づいた。 120622 |