緩和


おずおずと手を握り返した彼がなんだか可愛くて、思わず表情が緩む。十年前の――中学生のボンゴレ10代目。
まだ子供だ。こんな所に居るのには、相応しくない年齢の。


「ごめんね、基地の状況は私もよく知らないの。うちの隊がそちらへ襲撃を開始してすぐ、私は仮眠に入ってて」


起きたらスパナが、彼を担いでやってきたところだった。
もちろん、とても驚いた。敵の対象を匿い手当をするなんて、ミルフィオーレへの裏切りでしかない。幾らB級のスパナでも、ただでは済まないだろう。

(けど・・・)

良かったかもしれないと、私はちょっぴり思った。沢田綱吉くんを目の前にして、敵を、彼を殺すことに躊躇いを覚える。後日、スパナが殺したというのを聞いただけでも、業の重さに苦しむことになっただろう。


「助手子さんは・・・いいんですか?俺を匿ったら、」


ミルフィオーレは甘い組織ではない。バレたら処刑は、有り得る話だ。彼もそれを危惧しているらしい。囚われたこの状況で敵の心配だなんて、優しい少年だ。


「いいの、私とスパナは一蓮托生だから。彼はともかく、私はひとりじゃ意味のない人材だし」

「い、意味ないなんて」

「謙遜しているんじゃないの。それに、私は構わないと思ってる」


マフィアでの地位は、あくまで行動範囲を広げるために欲しかっただけだ。と、今出会った彼に言ってもわからないだろう。ファミリーの人にだって、あまりわかってもらえていない。

それから、綱吉くんが聞きたがっていたもうひとつの情報についても触れる。


「正ちゃん・・・入江司令官のこともわからない。ここ最近プライベートな交流はないから」


最後にあったのはいつだったか。大分昔な気がしている。チェルベッロたちだって、気安くは話せなくなった。


「最近の彼は、容赦がない」


メローネ基地司令官の彼は、一言で幾多もの命を切り捨てられる。ボス・白蘭の副官の名に相応しい働きぶりだった。

いきなり囚われ、情報も満足に得られない彼は不安でいっぱいなのだろう。そのまま俯いてしまった。スパナは忙しそうにしたまま、まだ手が離せそうにない。きっと良いようにはしてくれるのだろうが、綱吉くんは私たちを信用してはいない。

(弱いなぁ)

今にも崩れ落ちそうな、危なっかしい精神状態を気力で保たせているのだ。
その姿に、昔の弟が重なってつい、元気づけたくなってしまう。


「私ね、綱吉くんの写真は何度も、見たことあるの」

「えっ」

「スパナは綱吉くんの大ファンで、沢山研究したんだよ」


・・・ちょっと語弊があるかもしれない。ファンというよりも、どこかライバル視している部分があったから。けれども、きょとんとした綱吉くんの顔が見れたのだから、どっちでも良い。少しずつ、気持ちが解れてきたみたいだ。


「信じて、とは言わないけどもう少し待って。必ず、スパナは綱吉くんの役に立つ」


綱吉くんは、目を丸くして私を見る。そして、可笑しそうに笑うのだった。


「助手子さんは、優しいですね」



120622



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