千の代償


アフェランドラ隊が破れた。それだけで大衝撃だったが、その後、メローネ基地の全隊員を招集しての緊急事態宣言には、度肝を抜かれた。


「過去から来たボンゴレ10代目に、ボンゴレリング・・・・・・マフィアって、なんでもアリなんだ」


まるでおとぎ話である。タイムトラベルなんて、私にとってはSF小説の中の話。でもスパナは、さすが技術者というべきか、冷静かつ現実的にそれを受け止めたようだ。


「マフィアがというより、文明の発達によるものが多いだろう。それに、今のミルフィオーレは世界で一番、技術の発達が盛んな組織だ」

「改めていうのもなんだけど、マフィアとしての域を逸脱、してない?」

「そうでもない。昔から、常に技術の発達は戦争での軍事開発の中にあった。今は世界を乗っ取ろうとしているミルフィオーレが、最も軍事に力を入れてるからな」


特需景気というやつか。学生の頃に習った気がする。でも、それを身をもって知ることになろうとは、人生わからないものだ。
しかも私の手掛けるモスカたちは、人を殺す。間接的どころか、私は直接戦争に関わっている。戦闘は憎しみしか生まない。でも私たちはそのおかげで仕事が貰える。世の中、綺麗事では生きていられないというのは、真実だ。


「――うん、こっちのモスカは大丈夫そう。念の為燃料の補給だけして、白兵戦時の兵器の検査に移ります」

「よろしく。・・・いや、燃料はウチがやる。助手子は兵器の方を」

「はい」

「あと、もうひと頑張りだ」


会話をしながらも、私たちが手を止めることはない。極力無駄を省き、作業を続ける。
一斉奇襲に向け、基地内は慌ただしかった。C級以上の戦闘員が殆ど注ぎ込まれるのだ。彼らにとっての勝負は明朝、でも私たち技術屋にとっては準備に追われる今が一番の修羅場。


「昨日、もっと寝ておけばよかった。奇襲終わるまで体力持つかな」


情けないことに、スパナほど体力のない私は徹夜作業に限界がある。整備は体力勝負、疲れきって手元を狂わせるわけにもいかない。


「戦闘員送り出して、落ち着いたら一度寝てきてよ。ウチは大丈夫だから」

「でも・・・」

「今日はそこまで、切羽詰ってない。助手子が体調崩す方が困る」


目線だけをスパナに向ける。彼も、私をじっと見ていた。
その瞳に浮かぶ優しい光に、抗えず頷く。


「わかった。少しだけ休むね」


もう、スパナと出会ってから二年程になる。その間に色々なことがあり、私と彼との関係も変わっていった。私も昔と違い、今や歴としたマフィアだ。
けれど、変わらない。スパナは変わらずに、私を一番に気にかけてくれる。だから私も変わらずに、スパナのことを想っていられる。


「起きたらおにぎり、つくるよ」

「楽しみだ」


手には殺人兵器。漂うのは穏やかな空気。
夜が明けたら、また人が死ぬ。ミルフィオーレファミリーは、死体を積み上げたその上から世界を支配しようとしている。

それでも手を止めるわけにはいかない。綺麗事や都合のいい期待は、捨てた。私も自分なりに、闘っている。



(敵はマフィアではなく、この悪夢のような現実)


120619




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