プロローグ






(これはどこかの世界での話)






弟付き添いでロボット工学展に行く気になったのは、気まぐれだ。イタリア留学から帰ってきている弟は、お世話になった先輩が主催しているからという理由でこの展示会に来ていた。私もその先輩とは近所のよしみで面識があったし、色々とお世話にもなっていたから久しぶりに会いたいというのも、あった。

でも元々文系な私だ。展示会の内容は、さっぱりである。


「俺たちは入江先輩呼んでくるから。――姉貴、変に歩き回って迷子になるなよ?」

「大丈夫だよ。姉を子供扱いしないの!」

「助手子さんは、ちょっとそそっかしいから。そこがかわいいとは思うんだけれど」

「フゥ太くんまで…!」


弟の幼なじみにまでそう言われてしまって、年上としては立つ瀬がない。けれども残念なことに、彼らの懸念はみごと的中してしまって。


「それって、――じゃないんですか?」


物理学もまともにわからないくせに、余計な発言をしてしまったせいで、面倒な自体に自ら飛び込んでしまっていた。

説明役らしき青年につかまってしまって、辟易していたのだ。ロボット工学はわからないと素直に言えば良かったのだが、どうしてかそんな気にはなれず、苦し紛れの質問をしてしまったのである。


「君、それは物理学が根本的に理解できていないよ!」


ああ、やってしまった。悔しくて唇を噛んだ、その時。

急に背後から腕を引かれる。




「あんた、何者?」




ぐらりとバランスを崩した私は、その人物を見上げるような形になる。私より、頭二つ分は高い身長。深緑色の作業着。そして、くるりとした癖のあるま眩しい金髪。

硝子玉のような瞳と目が合った瞬間、あっと思った。

どくんと、胸がうずく。何故だかわからない。その瞳に、吸い寄せられるようにして目が離せなくなる。

彼も私を見て驚いたように息を飲み――それから、囁くようにして言った。



「ねぇ、ウチの助手にならない?」



捕まれた腕。見つめられた瞳。どこか懐かしいその光景に、涙がこぼれそうになる。




――私の答えは、遠い昔に、遠い未来に決まっていて。





きっとここから、私たちの世界は始まる。






「世界」/完結



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