ただいまとおかえりのある幸せ


すべてを振り返ると、勝利はしたものの、あまりに犠牲を出し過ぎた戦いだった。
この戦いで命を落とした人だけではない。白蘭さんがトゥリニセッテを手に入れる為に画策したすべてである。それは、ミルフィオーレがマフィア界で引き起こしたあらゆる戦い、ボンゴレ狩り、そして私やスパナがつくった兵器で命を落とした人すべてに言えることだった。

けれども、復活したアルコバレーノは告げた。ユニは命を捧げることでそれらすべてを救い、平和をもたらしたのだと。過去を遡って白蘭のマーレリングによって引き起こされた事象は抹消され、平和な過去が戻ってくるのだと。
時空の法則を無視したそれらは、しかしトゥリニセッテならば可能なのだと。


「過去へ帰ろう!!」


綱吉君の行動は報われた。
彼は文字通り世界を救い、そしてようやく戦いから解放されるのだ。




けれども。私は。



「過去が、変わる…?」


その言葉が引っかかって、ならなかった。明らかにされたそのことは、喜ばしいことに違いない。けれども、それは、つまり。


「白蘭さんの痕跡がすべて抹消されるって…」

「姉貴も、薄々感づいてたみたいだな」


いつの間にか横にやってきていたメカの言葉に、顔を上げる。メカと、その横に立つフゥ太くんは、とても真剣な顔をしていた。祝いの席にふさわしくない、悩むような表情。
私は、二人の顔色でわかってしまった。もしかしたら起こるかも知れない、弊害に。


「もしかしたら…私の隣には、スパナはいないかもしれない。そういうことでしょう」


それは、綱吉君たちが過去へ帰り、過去が改竄されたことによりこの世界にもたらされる変化だ。
白蘭さんの引き起こした悪事がなかったことになる。命を失った人の死が、なかったことになる。けれども、リセットされるのは悪いことばかりとは限らない。


「あの話…。私は他の時空では、スパナの助手をしていないんだっていう話。でも私は今こうしてここにいる。それは、私がスパナと出会えたのは、白蘭さんによるものだった」

「そういうことだ。俺や姉貴はある種のイレギュラーな存在なんだ。どこが分岐点だったかまではわからない。だけど助手子に関しては、何で今こうしているのか明確だろ」

「白蘭が助手子さんの存在の奇特さに気づいたのは、マーレリングの力を使ったときだから。…もし、マーレリングの関わった事象すべてが変わるとしたら」


フゥ太くんは言葉を濁らせる。それは、フゥ太くんの、優しさだ。
けれども言われなくても私は、その答えにたどり着いている。


「私がスパナと出会ったそのこと自体が、なかったことになる」


口にした途端、不安が押し寄せる。つい顔色に出たのか、慌ててフゥ太くんが声をあげる。


「そうなると決まったわけじゃない!…でも、可能性は、拭えない。それを伝えたくて」

「…うん」


私は頷いて、それから、頭を下げた。


「ありがとう、フゥ太くんも――メカも。メカだって私と同じでしょう。白蘭さんが私とメカを一括りにした時点で、その可能性は多少なりとも発生する。私は私で、きちんと考えるよ。だから、メカは、自分のことを考えて」

「…姉貴」


言葉では立派なことをいいつつも、締め付けるような苦しみに、目眩がする。それは私が一番恐れていたことだった。他の世界の私が彼と居ないことを思うだけで動揺してしまったのだ。改竄によってスパナとの出会いがなくなる。――それは、離ればなれになるよりも悲しいことのように思えた。


「杞憂にすぎないかもしれない。だけど覚悟、しておいた方がいいことは確かだ」


メカの言葉にもう一度頷き、私は彼の姿を探す。


スパナと、話をしなければならない。


150705



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