我慢だって本当は上手くない


アジトにはその後、程なくして到着した。ジャンニーニさんの先導のもと、秘密の入り口から入ることに成功したのである。


「スクアーロ!!!」


私たちはまず、一人残してしまったスクアーロさんの安否確認に走った。血だまりに沈む彼の姿に、山本さんが血相を変えて駆け寄る。しかし、スクアーロさんは見た目よりは大丈夫なようだった。意識もはっきりしており、山本さんの姿に「何故戻ってきた」と言わんばかりに顔を歪める。
彼の手当をビアンキさんが始めた横では、ジャンニーニさんがほっと息を吐いた。


「ああ…良かった、壊されたのは一部なようです。これなら、復旧もそんなに時間はかかりません」


それぞれが自分の目的に奔走する中、私はスパナと顔を見合わせる。きれいな色の瞳が、じっと私を見つめた。


「スパナ、私たちはどうしよう?」

「――部品を探そう。モスカに使える部品がまだ、どこかに残っているかも知れない」


*


アジト内で、まだ残っている部品類を集めてスパナは活動を開始した。自分にできるのはこれだけだから――と、スパナは割り切っているようで、黙々と作業を始めた隣で、私も彼のサポートに徹する。私ができるのも、これだけなのである。


「びっくりしゃった、まさかメカにあんな力があったなんてね」


静かな部屋の中、ぽつりと口から零れ出たのは、そんな言葉だった。
口調が拗ねたようになったのは、家族だったはずなのにまた知らない一面を見せつけられた弟への悔しさからかもしれない。少し前までは、頼りになるけれどそれでも私が守らなければならない弟、なんて思っていたのに、今ではすっかり立場が逆だ。なんだか、まだ気持ちが追いつかないのだ。

そんな心情を察してか、スパナはふっと笑って私の髪を撫でた。


「ウチは、納得。あと関心した。あんな匣兵器の使い方、始めてみた」


メカがあのとき披露したのは、わかりやすく言えば、匣兵器とロボット兵器の合わせ技だ。あのとき使っていたのは、大きくても私が両腕で抱えきれるくらいの小型タイプのロボットだった。それらの操作と同時に、”霧”の幻術で相手の五感を狂わせ、攻撃効果を倍増させていたのである。
だがこの戦い方は匣兵器戦闘としてはイレギュラーなものだ。効率が悪い。ーー恐らくこうすることでメカは、自分の微弱な炎でも戦闘を可能にし、またメカニックでも戦場に立つことも可能にしたのだろう。


「負けてられないな」


メカニックとしてのスパナを、触発するのには十分だったみたいだ。アジトに帰ってきて、スクアーロさんやアジト内の様子を確認するのももどかしいように、再び機械をいじり始めたのもそのせいなのだろう。
私は、スパナと背中合わせになるようにして座る。じゃまにならない程度に、ぐっ、と彼に寄りかかる。
愛おしい体温を背中越しに感じながら、膝を抱えた。


「ねえ、スパナ。聞いてもいい?」


チョイスが終わってから、ここに来るまで。短時間の間に色々なことが明らかになった。私は大いに混乱し、すべてを理解しきれたわけではない。
でも、それでも。ひとつだけ分かってしまったことはあって。そしてそれは、無視しきれるものではなくて。
不安が、心をかき乱す。
大事なときだから、私事を気にしている場合ではないとわかっている。それでも、この落ち着いた時間に、スパナの気持ちだけは聞いておきたくて。


「正ちゃんと、白蘭さんの話。どう、思った?」


絞り出した問いは、彼の耳に、どう届いていただろう。


160705



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