泥船は沈まない


あまりのめまぐるしさに、頭がパンクしそうだ。けれど考える暇も与えられず、私たちはせき立てられるようにして、走り出していた。

(どうなってしまうのだろう)

あのチョイスを行った雷のフィールドから、一度私たちは並盛町のボンゴレアジトに戻ったのだ。ユニを守ると決めた以上、白蘭さんたちとの戦いは避けられない。今度はゲームという括りはない、きっと激しい戦いになる。だから一度、体勢を整え直そうと。

ここに来た時に使った、超炎リング転送システムを使い並盛町に戻り、それからその転送システム自体を破壊した。そうすることで追撃を避け、白蘭さんたちを振り切ったはずだった。しかし、転送システムは破壊寸前で、彼らをもこちらに運んできてしまったようである。

アジトで息をついたのも、ほんの一瞬のこと。追いかけてきた男――六弔花のひとり、ザクロの襲撃に、私たちはアジトを追われた。その窮地を脱したのは、現れたスクアーロさんの助けがあったからこそだ。私たちは彼一人を残して、また、逃げていた。


「助手子、大丈夫か」

「う、うん、スパナありがとう」


足がもつれてよろけたところを、隣を走っていたスパナが支えてくれる。私だけではない。皆、疲労に顔を歪めている。

いつまでも闇雲に逃げているわけにはいかなかった。綱吉君たちは、一時的な逃げる先に、ハルちゃんの馴染みだという不動産屋を選択した。そこでとりあえず、腰を落ち着けた面々だったけれども…。


「それじゃ、行ってくるぜ」


山本君を先頭に、ビアンキさん、ジャンニーニさん、メカ、スパナ、そして私はアジトへ帰ることにしたのだった。理由は、先程襲撃を受けたアジトの様子を見る為だ。通信が切れた後のスクアーロさんも気になる。それから、アジトに戻れば何か、白蘭さんに対抗する策があるかもしれないという考えからだった。

綱吉君には止められたけれども、私たちの意志は揺らがなかった。皆も戦っている。だから、私も自分にできることをしなければならないと。それはスパナも同じように感じているらしかった。


アジトへの道中、心配したミルフィオーレからの攻撃はなかった。正ちゃんや私が抜けたからといって、ミルフィオーレは未だ存続しているのだ。隊員たちや、モスカの襲撃があってもおかしくない。でも、並盛町はいつもの閑静な住宅街の姿を見せていた。


「よかった…このままアジトまでは、難なくたどり着けそう」


だからと、ふ、と気を抜いたのがいけなかったのかもしれない。


「助手子!!!」


その気を抜いた一瞬、私は躓き、派手に転倒した。そのタイミングで曲がり角から現れたのは、白い隊服の男たち。そして、彼らの背後には一台のモスカ。
――私は一瞬で看破する。あのモスカをつれているということは、この隊員たちは、少なくともリング所有者である。一度メローネ基地戦でミルフィオーレの大多数の部隊は一網打尽にされたが、それから幾日も経つのだ。回復の早い者たちは、こうして復帰していてもおかしくない。

モスカに見覚えがある。どんな機能をもつものかも把握している。だけど、私自身にリング所有者に対抗する手段はない。今の一行の唯一の戦力ともいえる山本くん、ビアンキさんは、かなり前の方を走っていて、すぐに戻ってこれそうにはない。


「助手子!!!」

「助手子さん?!」


まずい、と顔を上げたところでこちらに気づいた山本君たちの声が響く。だがそれより先に、隊員たちが指輪に炎を灯した。
――間に合わない。
スパナが目をみひらき、慌てて駆け寄ってくる。でも、相手の攻撃の方がはやい。間に合っても、スパナに相手の攻撃を防ぐ能力はない。もう駄目だと唇を噛みしめた、そのとき。


「――俺を、忘れてんじゃねえよ」


私を庇うように立ったのは、弟だった。


150628



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