平行線に沈む


寝耳に水とは、まさにこのことだ。

確かに入江先輩の話は驚きだった。でも姉貴はともかく、マフィア歴はそこそこ長い俺――メカにとって、そのくらいの突拍子のないことも今まで受け入れてきた。白蘭の能力、入江先輩の過去、辻褄が合っているのならばそういうことなのだろう。そうやって納得することは容易だ。

だが、自身や身内の話となればまた別である。


「それって…どういう…」

「そのままの…意味だよ。君たち二人は、今当然のようにこの場にいる。ボンゴレやミルフィオーレの、中枢に。でもそんなこと…他の平行世界では一度もなかったことなんだ」


入江先輩は、俺の呟きを拾う。彼の零す言葉の意味を、俺は中々飲み込めずにいた。
姉貴――助手子は今、スパナの容態を見に行っている。そこでこの通信を聞いている筈だ。恐らく、絶句している。俺がそうであるように。


「理由は…わからない。ただ、何万通りの世界の中で奇跡的にこの世界だけが白蘭さんに支配されていない…それと同じように、奇跡的に君たち姉弟が僕らと共に、こうして運命を共にしているんだ」


俺の動揺を余所に、先輩は言葉を続ける。


「だから白蘭サンも君たちに興味を持った。いや――助手子ちゃんに」


ぞわり、と背筋を冷気が駆けあがる。


「僕が気付いたのは助手子ちゃんがスパナの助手になったって知った時だよ。でも白蘭サンはきっと、もっとずっと前から気付いていた。だから――無理やり、彼女を引きいれたんだ。助手子ちゃんは自らこの世界に入ったわけじゃない。きっかけはどうであれ…白蘭サンの強引なスカウトによるものだ」

「じゃあ…その時から…。だけど、姉貴がいることでそんなに変化があるのか?」

「どうだろうね。…でも助手子ちゃんの存在は、確かにミルフィオーレに影響は及ぼしていたよ。少なくとも…スパナの仕事効率は、多分他の世界に比べたらかなり良いと思う」


姉貴のこの二年程の活動は、まだ全部把握はしていない。
ただ、そう言われてみれば異常だ。特別な能力も何も持っていない女。色んな偶然が重なった結果だとはいえ、たった二年足らずでミルフィオーレの技術部の仕事の一端を担っていたのだ。あくまでスパナの助手だという縛りを差し引いても、出来過ぎている。


「あとは、そう。赤いモスカ。あれも実際、兵器としての効果はわからないけど…彼女がいてこそ出来たものだ。そして、白蘭サンの後押しがあってこその実現だった」


姉貴はどうやら、自身が思っている以上に白蘭に目を掛けられていたようだった。


「でも、だからといって彼女がいたからどうってわけじゃない。”スパナの助手”という本来はないはずの存在が、あり得たというだけ。それだけなんだけど…」


――ごめんね、上手く説明できなくて。
入江先輩は、息も絶え絶えに呟いて、俺に申し訳なさそうな顔を向けた。

俺はというと、早くなる鼓動を抑えられない。いやな動悸だ。きっと白蘭は面白がって、姉貴をこの世界に引きいれたんだろう。入江先輩の話によると、彼は他の平行世界の様子を全て知っているのだ。そこにはない、イレギュラーな存在。それが奴の関心を引きつけるのに十分だということは、想像に難くない。

俺の思考を裏付けるように、白蘭の声が響き渡った。


「そうそう、だから助手子チャンには僕の側に居て欲しかったな〜ってちょっと思ってたんだけどねえ。まさか、スパナくんとこんなに深い中になるなんて、僕もびっくりだったよ。うまく、してやられた」


いつの間に近くにやってきていたのだろう。真6弔花を従えた白蘭は、にまにまと笑いながら入江先輩を見下ろしていた。



「助手子チャンには何も特別なところはないけど、でも、望むならもっと可愛がってあげてもいいかなって思ってたんだけど、ね」

「な…!」


含むような物言いに、思わずカッ血が上る。
けれども白蘭に掴みかかる前に、俺の身体は引きとめられる。フゥ太が、背後に回り俺の腕を掴んでいた。けれど冷ややかに白蘭を見る表情とは裏腹に、フゥ太の俺を掴む手には痛いくらいの力が込められている。

白蘭は、そんな俺たちには目もくれない。囁く様に、笑った。


「君たちの負け。残念だったね、正チャン」



150517



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