仮想崩壊


チョイス戦の最中、戦闘に出れなかった私たちは観覧席に閉じ込められていた。そこで、会場に設置されたモニターから皆の様子を眺めていたのだ。選ばれたメンバーとは通信を取ることもできない。文字通り、ただ見守るだけだった。
勿論、非戦闘員が巻き込まれない形だったことで安心した点もあった。元々マフィアだった私たちは兎も角、今回はここにハルちゃんや京子ちゃんもいるのだ。彼女たちが狙われたらと思うと、背筋がひやりとする。

とはいえ、歯がゆい思いを随分させられた。仲間が奮闘し、傷ついていくのを見ているだけだなんて耐えがたい苦痛だった。
観覧席から解放されたのは、勝敗が決まってすぐだ。モニターには血を流し、倒れる正ちゃん。駆けつける綱吉君。私たちは皆、顔を真っ青にしたままその様子を見つめた。

そして次の瞬間。私たちは各々、彼らの元へと駆けだしたのだ。


「スパナ…!」


メンバーの多くは、正ちゃんと綱吉くんの元へ。そして私は、ビアンキさんと共にスパナの救出へと向かった。スパナも多少の怪我を負っていたものの、正ちゃんや綱吉君ほどではない。そのことにほっとして、身体の力が抜けた。


「ああ、良かった…もしスパナに何かあったらって、私…」

「大丈夫だよ助手子。応援、ありがと」


腰を抜かしかけた私を、スパナが支えてくれる。その温もりに、涙腺が緩んだ。後ろからやってきたビアンキさんは、私を落ちつかせるように微笑んだ。


「それよりも…正一だ」


応急処置を受けながらスパナは呟く。私たちは通信機から流れる音声に耳を傾けた。――先程の、命を削りながらも勝利に拘る正ちゃんの姿が、脳裏に蘇る。白蘭さんは強敵だ。世界のために、倒す必要がある。

(でも、どうして貴方が、そこまで?)


皆が抱いたその疑問は、この件の根幹を握るもので。
そして明らかになった正ちゃんの話は――私たちの想像を遙かに超えた、衝撃的なものだった。




十年バズーカによる、幾度にも渡る未来への干渉。
白蘭さんとの遭遇と、彼の能力の発覚。
そして――何万通りもの、世界の滅亡。


パラレルワールドなんて、物語の中の話かと思っていた。正ちゃんは未来を変えようと、今までずっと一人、必死だったのだ。
彼の見てきた未来はどれも、白蘭さんを止めることは不可能な未来だった。そして唯一、彼に打ち勝つ可能性があるのは今私たちが居るこの世界なのだ。それは、正ちゃん自身が作り上げた未来だったからだ。そして綱吉君との偶然の出会いで、奇跡的にボンゴレ匣が作られた世界だからである。


「でも…辻褄が合う。」


スパナが小さく呟く。
そして、話の最後に正ちゃんは付け足すように、言った。


『それにね…メカと助手子ちゃんのことだ』

「えっ…?」


突然上げられた私たちの名前に、心臓が跳ねる。


『白蘭サンも何度か言っていただろう…二人が、面白いって』


通信機の向こうから聞こえる正ちゃんの言葉。冷や水を浴びせられたように、私の体は急速に冷え切っていく。徐々に速度を上げる鼓動を抑えることはできなくて。


『あくまで僕が知る限りなんだけど、僕は助手子ちゃんがこうしてマフィアに関わっている世界は、他に知らないんだ』


まるでどこか遠くの世界での出来事のように聞こえる。
全く現実感のないまま、視界が、歪んだ。


130411



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