標的


数あるチョイスのルールの中から、今回採用されたのはターゲットルールである。

ターゲットルールは、互のチームで一人、相手の標的になる人物を決め、先にその標的がやられた方が負けというシンプルなものだ。ターゲット――標的は将棋でいうところの王将、チェスでいうキングだ。
その標的は先程のメンバーチョイスで決定していた。炎の点った属性の人物がそれであった。

私たちの方の標的は、正ちゃん。そして白蘭さんの方の標的はデイジーである。

(今のボンゴレの中で、この戦いを誰よりも熟知している正ちゃんが大将、それは願ってもないことだ)

誰しもがそれは思った。だが、このルール、それだけに留まらなかったのだ。標的とそれ以外の差別化をするために灯された、標的の炎(ターゲットマーカー)。胸に自らの死ぬ気の炎を灯す、それはすなわち、その人の生命エネルギーが垂れ流し状態にあるということ。正ちゃんはこの戦いの間、徐々に命を失っていくということなのだから。


「もう一度いうけど、どんな理由であれ標的の炎が消えたら負けだからね」


念を押すように言った白蘭さん。すなわち、体力切れで倒れても負けてしまうということ。それに、倒れるだけで済むとは限らない。もしこの炎が完全に消えたら、それは正ちゃんの命の最期ともいえるのではないだろうか。

(これ以上分かりやすい、命の掛け方はない)

覚悟を決めていたとはいえ、あまりに直接的で露骨なルールだ。これは遊びではない。ゲームと称し、ルールの制限を設けているけれども、間違いなく殺し合いの延長戦なのである。マフィアとしては当然のことではあるが、どうにも綱吉君たちといると命を掛けるということが愚かしいことのようにしか思えなくなってくる。彼らはとても優しくて、マフィアなんて似使わない、まっとうな中学生だから。

綱吉君は勿論、正ちゃんを危険にさらすこのルールに良い顔をしなかった。けれども、強引に彼を承諾させたのは他でもない、正ちゃん本人だった。


「白蘭サンをこんなにしちゃったのは僕なんだ!僕が逃げるわけにはいかない!!」


正ちゃんの言葉にいまいちピンとこない。けれど白蘭さんは思い当たる節があるのか、うすら笑いを浮かべる。綱吉君は戸惑い、首を傾げる。――ちらりと、綱吉君が私に視線を送った。けれども私にも、今の正ちゃんの発言の意図することはわからない。

そしてその真意を知ることなく、チョイスは開始した。




戦闘は、苛烈を極めた。
修行を積み、ボンゴレボックスを使いこなす綱吉君たちは、メローネ基地での戦いよりも遙かに強くなっていた。しかし、白蘭さん自慢の真六弔花も伊達ではない。人間離れした動きをする彼らに、戦っている綱吉君たちは勿論、観覧席で見ている私たちもハラハラさせられっぱなしだった。

何度も、危ない場面はあった。それでも、彼らは諦めなかった。必死に戦った。

――そして遂に、相手の標的であるデイジーを強襲し、斬り倒した山本くん。同時に真六弔花・桔梗によって腹を貫かれた正ちゃん。
二人が倒れたのは同時で、勝敗は引き分けかと思われた。


だけども。


「そんな…不死身、だなんて」


一度消えた炎がまた、燃え上がる。絶命した筈のデイジーは「死ねない身体」なのだと桔梗が笑う。


『正一くん!!』


絶句する私たちに、綱吉君の声がモニター越しに聞こえる。必死のその呼びかけに、正ちゃんはうっすらと瞼を開けた。お腹からは血が流れ出ていて、痛々しい。このまま死んでしまうのではないか…そう思った矢先の反応に、少しだけ安堵した。


『…チョイスは…どうなった…?』

『…ゴメン負けたんだ…』


公平な審判の元で下された判定を、綱吉君は眉尻を下げて伝えた。すると正一くんは大きく目を見開き、傷ついた身体を無理やり起こそうとする。


『なんだって?!そんなことは許されない!』


その激しい言葉に、驚いたのは綱吉君だけではない。
モニター越しの私たちも、彼の剣幕に息をのんだ。


『まだだ、戦うんだ!白蘭サン!僕はまだ戦える!』

『ダメだ正一君!動いたらお腹から血が!』

『てめー死にてーのか!』

『死んだっていいさ!白蘭さんに勝てるなら、喜んで死ぬ!!』


あまりに必死なその様子に、私の脳裏にはこの数日間の――否、メローネ基地で正ちゃんの本心を知った時からのいくつかの言動が蘇る。

(一体…どうしてそこまで…)

まるで、そうしないと全てが終わってしまうとでも言うように。
正ちゃんは絶望に突き動かされるように、白蘭さんを倒さなければいけないと、繰り返し繰り返し言っていた。


『なぜこんなことになってまで白蘭を倒すことに執念を燃やすのか、わからないよ!』


綱吉君の声が、響く。
それが全てを代弁していた。私たちは何も知らないのだ。何故正ちゃんがそこまで白蘭さんを目の敵にするのか。何故、白蘭さんと敵対しようと思ったのか。

それはきっと、この度の騒動の根幹にある重要事項だ。


141215



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -