不安 指定された集合場所の並盛神社は、実際の戦闘場所ではなかったらしい。私たちは白蘭さんの導き、そして綱吉君の選択――チョイス、によって雷のフィールドへと連れてこられた。 (これが、チョイス) 超高層ビルの立ち並ぶ街中である。こんなところで戦うのかと驚く一同に、白蘭さんは笑顔で人払いは済んでいると告げた。 舞台を選択し、兵士を選択する。正ちゃん曰く、白蘭さんも不正は絶対に働かない選択のゲーム。根本のルール自体は、そんなに難しいものではない。選択によって得た条件で、闘い合う。まさに運も実力のうちという言葉のぴったりな、戦闘能力だけでは勝敗を読むことのできないゲームだ。 私たちは数日間、この日のために全力で用意してきた。運はともかくとして、実力もそう悲観的ではないだろう。あとは、どう転ぶか。それは始まってみないとわからない。だというのに、何故か心が落ち着かない。 (白蘭さんが何を仕掛けてくるか、全く分からない。…ううん、彼の考えていることなんて、一度だって分かった試しはないけれど) 白蘭さんとは数年間、部下として何度も言葉を交わしてきた。それでも遂に、白蘭という人を全く理解できなかったのだ。長い付き合いである正ちゃんですら、彼の掌の上だったのだ。私にわかる筈はないのかもしれないけれど。 (…でも、気後れはしていられない。少しでも気を抜いたら、それは隙になる) 私は気を引き締めるように顎を引き、かつてのボスを見つめた。白蘭さんは視線に気付いたのか、にこにこと手を振ってくる。 「久しぶりだね、助手子チャン」 「…お久しぶりです、白蘭さん」 自然と、声は警戒の色に染まった。隣に立つスパナが、心配気な顔で見下ろしてくる。そっと伸ばされた手が私の指を絡め取り、優しく包んだ。その暖かさに幾分か、心は和らぐ。しかし視線は、白蘭さんと合ったままだ。彼は、私とスパナを交互に見て目を細めた。 「正ちゃんやスパナくんがそっちについたことは仕方がないこととはいえ、助手子ちゃんが僕のもとから離れちゃったのは、やっぱり少し惜しかったかなあ」 「お世辞はいりません。私のような一隊員が白蘭さんの元に残っても、何のメリットもないでしょう」 「いや、お世辞じゃないよ? だって君は、その存在自体が面白いからさ」 「…それって、どういう、」 「綱吉君、次のチョイスをはじめなきゃ」 含んだような物言いに、問い返そうと思ったところで言葉は遮られた。 (動揺、させられた) 白蘭さんにはこれ以上、私と会話をするつもりはないようだった。私は、唇を噛みしめる。白蘭さんに常識は通じない。彼の事は、わからないことだらけだ。そんなこと、はじめからわかっていたではないか。それなのに。 (なんでこんなに、不安なの…) 思わず、繋いだ手をぎゅう、と握る。その時、耳元でスパナがそっと囁いた。 「助手子、心配するな」 「…え」 ぱっと顔を上げると、スパナが眉尻を下げて私を見つめていた。 「何があっても、ウチが必ず守るから」 「スパナ…」 繋いだ手に、力が籠る。その力強さに、安心する。不安は解消されない。けれども何があってもきっと大丈夫だと、そう思わされる。 ――今までも色々なことがあった。でも、乗り越えてきた。スパナと一緒なら、どんなことにも負けはしないのだ。 「うん、そうだね。頼りにしてる」 「まかせておけ」 私たちは囁き、笑い合う。 視線を戻した先には、ジャイロルーレットを挟み対峙する白蘭さんと綱吉くん。 「さあ、チョイスをはじめよう」 その掛け声に、いよいよルーレットは回りだした。 141021 |