自覚はあるよ、


決戦の日、その朝。
ボンゴレの地下アジトは、緩やかに目覚めを迎えていた。それぞれが、後悔をしない為に、大切なものを守る為に、未来を掴む為に、静かに意志を固める。慌ただしく準備を始め、気持ちを高めていく。

そんな中で二人、既に決戦とばかりに身構える姿があった。京子とハルである。二人は両手に鍋ととお玉を装備、それを掲げてある部屋の前に居た。

ビアンキから仰せつかった大事な役割である。まだ起床していない仲間を起こす仕事を与えられたのだ。二人は、順々に部屋を回る。守護者たちは皆、起こす前に起きていた。気持ちが高ぶって、寝ていられなかったのかもしれない。大人たちもしっかり起床し、準備を進めている様子だった。だから、彼女たちの活躍の出番はないまま最後の二部屋へ差しかかる。

そしてやってきた、ミルフィオーレ出身の外国人技術者――スパナに宛がわれた部屋だった。
京子とハルは、ドアに耳をぴったりとつけて中の様子を窺う。小さく聞こえる寝息に顔を見合わせた。


「まだ、寝てますかね」

「うん、そうみたい。スパナさんと入江さん、アジトに来るまではほぼ不眠不休だったって昨晩助手子さんも言ってたし…」


そういう助手子もふらふらで、スパナや正一と同様に徹夜続きだったことは一目瞭然だった。だから昨日、京子やハルの手伝いを申し出た彼女を早く休むようにと部屋に案内したのを覚えている。けれども、今朝にはもう助手子の姿はなかったので彼女は既に起きて準備を始めているのだろう。

酷く疲労しているであろう技術者たちを起こすのは気が引ける。だが、そうも言っていられない。心を鬼にして彼女たちはドアに手を掛けた。


「よーし、ハルちゃん行くよ」

「はい!京子ちゃん、開けます!」


そうして部屋の扉を開け放ち、鍋とお玉を打ち鳴らし声を上げる。


「起きてくださ――!!!?」

「もう朝で――?!!!!」


しかしその声は、途中で途切れた。

スパナは、京子とハルの見立て通り、まだ眠ったままだった。部屋の奥、ベッドで寝息を立てる彼はきっちりとナイトキャップまで被って寝入っている。このアジトへ来てすぐに眠ったらしいと聞いていたので、あまりに完璧な就寝スタイルを意外に思った。

でも、二人の視線を奪ったのはその部分ではなかった。
寝入る彼の腕の中。抱きつくようにしてスパナが腕を回す、その先。京子たちの襲撃に気付いたように、うめき声を上げる。


「んん…」


寝起きの、掠れたその声はいつものそれより艶めかしい。もぞりとうごき体勢を変えようとする彼女を、ぎゅっと抱え直すスパナ。それが誰かなんて、考える必要もなく明らかである。とうに部屋を出ている筈の彼女は、恋人の腕の中で寝入っていた。

数秒後の沈黙の後。京子とハルはようやくその状況を認識した。


「し、失礼しました!!!!」


揃って顔を真っ赤に染め上げて、一目散に逃げ出したのだった。






京子ちゃんとハルちゃんの嵐のような来襲で、私はようやく目覚めた。起こしに来たと思ったら慌てたように走り去った二人に、寝ぼけていた頭が一瞬で覚醒する。ああ、やってしまった。ここ、ミルフィオーレじゃなかった。ついいつも通りな気がしていて、初々しい彼女たちの反応に、改めて気恥ずかしさが湧きあがる。


「スパナ、もう朝だって」


回された腕を、軽くゆする。スパナは重たげな瞼を持ちあげると、至近距離で私を認識し、微笑んだ。


「助手子、おはよう」

「うん、おはよう」


昨晩。せっかく女子側に用意してもらった部屋を、抜けだしたのは私だ。とても眠かったけれども、スパナの側が一番安心して眠れると、思ったのだ。
ミルフィオーレではここ最近、彼とは同じ部屋でひとつのベッドを使用していたから、それが自然になりつつあったのである。だから、男女が一緒に寝入る姿で可愛い女の子たちを動揺させてしまったことについては、本当に申し訳なく思う。

そんなことを考える私の隣で、愛おしい恋人はそこまでは思い至らないらしい。ちゅ、と私の頬に唇を寄せ、それからスパナは静かに呟いた。


「いよいよ、決戦だな」



140706



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