相手は愛しい君だから


決戦に向けて、技術者チームの仕事は佳境に差し迫っていた。
守護者たちの修行に負けず劣らず、技術者のここでの頑張りが数日後に控えた戦いに影響してくる。少なくとも私はそう思っている。

白蘭さんの通信の後、私もメローネ基地跡地へ戻り、スパナの助手業を再開した。
今取り組んでいるのは、”チョイス”という件の戦いに必須だというユニットと呼ばれる、いわゆる行動の拠点となる場所である。私たち、ボンゴレチームの中で唯一チョイスを知る正ちゃんを中心に、スパナと私の三人でこのユニット作りを進めていた。ちなみにアジトの方では、ジャンニーニさんとメカが、別の兵器の開発を進めているらしい。


「この調子だと、なんとか間に合いそうだね。ちょっと休憩しようか」


正ちゃんの言葉に、スパナが手を止める。私もそれを見て、お茶でも出そうかとアジトから持ち込んだポットから、急須へお湯を注いだ。

周囲を見渡す。ここは、メローネ基地の跡地だ。けれども基地は白蘭さんが強制転送したことで、ぽかりと地下に空いた、寂れた空間と化している。
綱吉くんたちが突入してきてから、正ちゃんの寝返り、白蘭さんが基地を強制転送したこと…一連のこの流れは未だに、私の理解の範疇を容易に越えている。私がミルフィオーレ所属だったことはまだ数日前の話であるけれど、遠い昔のようにも感じた。

ふと、忙しさで後回しにしていた疑問が浮かび上がる。


「ねぇ、正ちゃんは進んでボンゴレに入ることを望んだんだよね」


あの時。私たちがミルフィオーレからボンゴレに所属を変えたけれど、熟考して決めたわけではない。ミルフィオーレは酷い組織だったけれども、二年近く居たのだ。それなりに愛着らしいものもあったのである。
私ですらそうなのだから、私よりも長く居た正ちゃんやスパナはどう思っているのだろうと、気になっていたのだ。

正ちゃんは、私の問いにすぐ頷いた。彼としては、この展開はずっと決めていたことらしい。


「そうだよ。大人の綱吉くんとは何度も話していて、彼の人柄もボンゴレの良さも知っていたから、ボンゴレ入りは願ってもないことだったんだ。それに、白蘭さんをどうしても止めたいって思っていたから、なりふり構わずっていうやつかな」

「スパナは?」

「ウチは特にこだわりはなかったし、正一が居た方が面白いって思ったっていうのもあるな。ボンゴレもその技にも興味あったから、丁度良かった」


スパナはそれから、私を見て表情を緩ませた。


「でも、助手子の為にはボンゴレで良かったと思った。弟の件も、助手子の安全の為にも。それだけで、ウチがボンゴレを選んだ価値は大きいよ」


私が手渡そうと差し出した、カップごと手を包まれる。私より大きくてちょっと冷たいその手のひらに、慈しむように向けられた視線に、心が温かくなっていく。

スパナは、気付いていたのだ。私が何を気にしていたのか。
私自身は、ボンゴレ側につけたことにほっとしている。あのまま、知らずに弟やフゥ太くんと対峙していたらと思うとひやりとする。白蘭さんの残忍な計画に協力していく不安もあった。それでもスパナと一緒なら…と思っていはいたけれど、三人でのボンゴレ入りできるのならこれ以上のことはない。

でも同時に、スパナの選択肢を狭めてしまったのではないかと思うのだ。私の存在が彼の行動を制限する…それが良い方向ならいいけれども、そうとも限らないと。
けれどスパナは、そんな私の不安を解かすように、笑う。それが嬉しくて、こそばゆい。


「スパナ…ありがとう。ごめんね」

「謝る必要なんてない。助手子の為なら、ウチはどこへだっていくよ」


私の手からカップをさらったスパナの手は、それを床へ置くと、私の身体を優しく引き寄せた。甘えるような彼の行動に、自然と強張った身体から力が抜けていく。


「でも、ボンゴレには優秀な技術者が多いから、頑張らなくっちゃだね」

「そうだな…負けない…助手をしてくれてる助手子の為にも、一番の技術者だって証明してみせる」

「僕も負けてられないなぁ。後輩に後れを取るわけにはいかないしね」


私たちのやりとりを眺めていた正ちゃんも、お茶を啜りながら笑い、眼鏡を押し上げた。

あと、ひと踏ん張り。時間は、そう多く残されてはいない。
それでも、俄かに盛り上がり始めた技術者たちの戦いや、皆の希望に溢れた笑顔に。

ああ、楽しいなあと、思ってしまうのだ。


140614



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