いい子にはなれそうにないや


赤いモスカ。
あの企画はミルフィオーレ内でも、奇特な企画として異様がられていた。数は少ないながらも、ヨーロッパに投下された数台の赤モスカは、噂になっていたらしい。その性能や効果についての報告は受けていたが、実際に噂を聞いたというメカの話は、いかに件のモスカが異様がられていたかがわかる。


「機能は普通のモスカと変わらないようだし、特にチューンアップされていたわけでもないらしい。それなのに、赤モスカを見ると皆恐怖したって聞いたぜ。あれは――壊れる前に、悲鳴を上げるってな」


その言葉の通りだ。
赤いモスカの特徴は、悲鳴を上げることである。条件は、ある一定の被害を受けること。一定の被害を受けた後は、そのダメージに合わせて音を上げる。そして破壊されるその瞬間には、断末魔を上げるのだ。

――まるで、生きているように。苦痛に耐えるように。


「悲鳴を上げることによって、モスカをただの兵器にしないようにしたの。悲鳴を上げること、苦痛を訴えることは、生き物として当然の行為だと思ったから」

「悲鳴を上げる、だけか?」

「うん、それだけ」


私の返答に、一同は微妙な顔をする。
それは、そうだろう。そんな企画、見たことも聞いたこともないだろうから。それはマフィアとして新米の私よりも、長年マフィアとしてやってきた皆の方が思うことなのだろう。


「私も、まさか企画が通るとは思わなかった。私の意見が通った背景は、正ちゃんに聞くとよくわかると思う」


確かあれは、私がようやくミルフィオーレに馴染んできたあたりだったと思う。問題は、そこではない。


「あのモスカの発想ね、私は何でもないと思っていたんだけど、皆からしたら常識外れのものだったみたい」

「まあ、技術者だったら普通そんなもん付けようと思わないだろうな。兵器につけても、特に利益があるとは思えないからな」

「でも、だからこそパナは前衛的だって思ったんだって。そして私のこの考えが――私が、ミルフィオーレにスカウトされた原因だったの」


――あんた、どこのファミリーの技術者?

蘇る記憶。突然掴まれた腕。私を見下ろす、青年。スパナとの初対面のあの瞬間だ。


「私はすっかり忘れてたんだけど、あのロボット工学展のときにね、私は言ったんだって。ロボットが破壊されること、壊れることをどうやったら防げばいいかって、それって”ロボット自身が悲鳴を上げて、助けを求めればいんじゃないですか”…って」


今考えると、それはあまりにも幼稚な発想のように思う。その時の私は、ロボットはおろか、物理学さえろくに知らなかったのだ。
でもそれを聞いたスパナは、震えたらしい。その背景には、当時マフィアで密かに行われ始めた死ぬ気の炎の研究があった。そこでは、兵器の生物化…今でいう匣兵器に繋がる研究がされていたのだ。私の発想――悲鳴を上げるロボットは、まさに兵器の生物化に関連したものである。

――偶然の一致。そう言ってしまえば簡単なこと。でも、ただの一般人にしては、あまりに的確なそれに、私を彼はマフィアの技術者だと疑ったのだ。


「なるほどな。それは姉貴が持って生まれた、一種のセンスってやつかもしれない。開発する側の人間は、多少そういう技術を持った人間よりも、何も知らなくとも柔軟な発想をする人間を重宝するから」


そこで、ピンときたようにはっと声を上げたのフゥ太くんだ。


「助手子さんのそういう部分を、白蘭が手放すのを惜しんだってことかな」

「…確証は、ないけれど。私には、それしか考えられない」


白蘭さんは、私を率先的にマフィアに引き摺りこんだ張本人でもある。マフィアになってから特に彼に重宝されていたような気はしないが、もし理由があるとすればそれだと思った。
私自身、未だに自分にそんな凄い能力があるとは思えないけれど。わざわざ白蘭さんがどうしてマフィアに引きこんだのか、それならば理由がつくだろう。


「良く分かった。助手子がどういう奴かも、なんとなく分かってきたぞ。やはりお前は、ただ巻き込まれただけの女じゃねーな」


リボーンさんは、じっと私を見据える。


「チョイスでは、何が起こるかわかんねえ。何かあった時は、お前にも活躍してもらう。頼むぞ」


私は、頷く。
私ができることは、少ない。それは分かっている。でも、出来ることがあるのならば、全力でやる。私だって彼らの仲間なのだ。


チョイスまで、あと6日。
もうすぐ、運命の戦いが始まる。


140518



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