無い物ねだりは治らない


私とスパナの出会いは、約二年前のことになる。
最初の一年、突然降って湧いたスパナの助手という立場に戸惑いは多かったけれど、それでも私は順応していった。そして、決めたのだ。スパナの助手としてやっていくと。
次の一年は、兎に角必死だった。スパナと一緒に居る為には私自身、マフィアとしての力を付けるしかなかった。自分でも驚くほど、私は成長した。ミルフィオーレでの地位を確立し、護身術も、仕事も、覚えた。

それは、そんな中での出来事のひとつにすぎなかった。


「私の仕事は、スパナの助手。それは私がマフィアになってからずっと、変わらなかったことなの。でも、いつまでもスパナの手伝いだけしているわけにはいかなかった。次第に主な請負作業くらいはこなせるようになったの」

「スパナの仕事っていうと…」

「多くはモスカのチューンアップ、だったかな」


スパナの主な仕事は、モスカや兵器の開発だ。その中でも一番多い作業がモスカの整備。そして私はこのモスカのチューンアップを、すぐに或る程度は一人でこなせるようになったのだ。


「スパナは、とっても良い上司だった。私は元々技術はからっきしだけれど…そんな私の意見でも、新兵器の開発に取り入れてくれた」


まだ、恋人同士になる前の話だ。私のちょっとした発言にスパナは目を輝かせた。
――発想の転換。彼はそう興味を持った。そして私の発言を、研究レポートとして正ちゃんに提出してもらったのだ。その企画は見事通り、とある研究を行うことになったのである。
そうして出来たのが、新しい機能を搭載した新型モスカだ。

この流れ自体はあまり不思議なことではない。問題は、その搭載機能が他とは類をみない奇抜なものだったこと。


「まさか――”赤いモスカ”か…?」


声を上げたのは、メカだった。
赤いモスカ。その聞き慣れない単語に皆は首を傾げたが、聞き覚えがあるらしいメカ、そしてディーノさんは表情を硬くした。


「そう、正式にはストゥラオ・モスカα型っていうのよ」

「なんだその、α型って」

「この日本にはあまり導入されていないから、知らなくて当然だと想う。試験的に何体かヨーロッパの方で導入していて、その影響の報告を待っていたところだったの」


私の言葉に、苦虫を噛みつぶしたような顔でメカが追加する。


「向こうでは、かなり話題になってたんだ。妙なモスカがいるって、皆不気味がっていた。大して戦闘能力は無いんだが、変だから関わらないようにしていた」

「ああ、俺のところもだ。うちの部下たちから噂は入っていたぜ。他のモスカとは明らかに違うから、見分けは簡単につくしな」


メカもディーノさんも、ここ数年はほとんどヨーロッパに居たらしい。なるほど、それならば遭遇の可能性もあるだろう。
どういうことだ、と頭に疑問符を浮かべた面々。私は一呼吸置いて、その最大の目印を教える。


「塗装が真っ赤なの」

「それは…かなり目立つわね」


ビアンキさんの言葉は尤もである。だが、敢えて目立つ塗装にしたのだ。試作品だったこともあり、他のものとのデータの差を見極めたかったから。


「で、そいつには、どんな機能が備わっているんだ?」


リボーンさんの問いかけに、言い淀む。改めて考えると、とんでも機能を搭載したものだと思ったのである。だが、言わないわけにもいかない。皆の視線に答えるように、静かに、打ち明けた。


「私の作ったモスカはね、悲鳴を上げるの」


140506



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