素直じゃないのも可愛いよ


「え、私だけ?」


告げられた指示に、ついそんな風に聞き返してしまった。
仕事におけるスパナの指示は非常に的確であるし、現在は正ちゃんも付いているから尚更だ。私は彼らの決定に不満を唱えたりはしない。
でも今回は、黙って承諾するには少し疑問が大きかったのだ。


「うん。ここは正一と二人でどうにかなりそうだから、助手子はボンゴレの手伝いに回ってくれ。暫く向こうのアジトに行っていて欲しい」


現在、白蘭さんとの対決に向けて、私たちはメローネ基地の跡地でひたすらに作業している。まずは、綱吉くんたちのタイムトラベルに起因している正ちゃんの研究装置の運び出し。それから、来たる”チョイス”戦の準備。
今度の戦いは、ただ綱吉くんたちが戦えばいいというものではない。私たち技術者たちが、どれだけこの10日間…既に1日過ぎているから残り9日で、対策を取れるかが大きな鍵となる。

つまり、忙しい。猫の手も借りたい忙しさとは今のようなことを言うのだろう。だからこそ、二人には技術面では足元にも及ばない私でも役に立てていると思っていた。少なくとも、私が抜けた分二人に負担が掛るのは確実なのだ。
けれども、スパナは私に抜けるように言うのである。


「構わないけれど…向こうで助手の私にできる事は少ないと思うけれど…?」

「そんなことはない。助手子はどこに出しても恥ずかしくない、ウチの助手だ」

「そうだよ。僕らのこともよくわかっている君だから、任せられるんだ」


こんな風に言われてしまったら、断れない。
スパナは私を大切にしてくれているし、ただ邪魔者扱いされたわけじゃないと思う。今回の指示も、何らかの意図があるのだろう。

(だから、黙って従うべきかもしれないんだけれど…)

でも、正直その指示では私一人が楽をすることになると思うのだ。ここを離れるのも、アジトで綱吉君を助けてもいい。だからその他の時間は、こちらの作業を手伝わせてもらったりしたら駄目なのだろうか。
私が答えを渋っていると、スパナはぽつりと付け足した。


「助手子、しばらく休んでいないだろう。ゆっくりしておいで」

「でも…それは、私だけじゃないし…」

「助手子ちゃん僕たちのことは気にしないで。それよりも、スパナの気持ちを汲んであげてよ」


正ちゃんはチラリとスパナを見やり、小声で続けた。スパナはパソコンから目を離さない。


「大切な子をこんな危険な場所で何日も無理させて、気が気じゃないんだと思うよ?」


どうやら、スパナは照れくさくて聞こえない振りをしているらしい。でも耳が真っ赤で、バレバレだ。
けれど照れてしまったのは私もなので、お互い様だった。未だにスパナに大切にされていることを目の当たりにすると、恥ずかしくて…それ以上に嬉しい。
私はぎゅっと、愛おしい彼の背中に抱きついて、頷いた。


「わかった。スパナ、ありがとう」





そうして、承諾したまでは良かったけれども。



「あ!もしかして、助手子さんですね!」

「私たち、ツナくんから聞いてお待ちしていたんです!」


ボンゴレとの待ち合わせ場所に居たのは、可愛らしい二人の少女だった。てっきり、弟やフゥ太くんが来るのだとばかり思っていたので、少し面食らう。
でもこの子たちが迎えで間違いはなさそう。


「助手子さん、着替えとかないんでしょう?」

「え、あ、はい」

「ビアンキさんとクロームちゃんが、向こうで待っているんです。せっかくだから、みんなでお買いものしようって」

「さぁ、行きましょう!」


唖然とする私を気にすることなく、左右の手が取られる。
そういえば、ミルフィオーレに入隊して以来、まともな女の子と接するのは久しぶりかもしれない。ミルフィオーレにも女性は居たけれど、ほとんど関わりはなかった。

(どうしよう…)

左右でキラキラと笑う彼女たちに、ちょっと私は緊張している、みたい。



130904



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