ほら、またそんな顔をして


並盛ショッピングモール地下、メローネ基地跡地。
正ちゃんの裏切り、ヨーロッパ戦でのヴァリアー勝利の報、白蘭さんからの緊急通信。立て続けに起きたどんでん返しに目を回しながらも、私とスパナはボンゴレ側に付くことになった。

あの後、アジトに戻る綱吉くんたちを見送って、私はスパナや正ちゃんと共にここに残った。タイムトラベルの要である正ちゃんの装置を、どうにか安全に保存する必要があるのだ。それに、白蘭さんが提示した“チョイス”という戦い。これは技術屋の力量で大きく左右されるものらしく、とにかく暇がない。
とはいえ、所詮助手である私に出来ることは限られている。私はどうにか見たくない現実から目をそらし、逃げているだけだ。


「・・・そろそろ、向き直らないとダメかな」

「メカのことかい?」


口から零れた独り言に、思わぬ場所から反応が上がる。キーボードを叩きながら、正ちゃんが眉尻を下げて私に視線を寄越した。珍しく、ヘッドホンは外している。
メカというのは私の弟のことだ。先日、ボンゴレに所属していることが明らかになったまま、放置しているのである。


「・・・正ちゃんは、いつから知っていたの。メカがボンゴレに居ること」

「ついさっきまで、知らなかったよ」


意外だった。てっきり、全て大人の綱吉くんとの計画の内なのかと思っていた。彼は先程も、驚きひとつ見せずにうちの弟と通信していたようだったから。


「驚きよりも、納得したんだ。ボンゴレに凄い技術者がいるとは綱吉くんから聞いていたから・・・まさか噂の“メカ”が彼とは、頭が上がらない思いだけどね」

「噂のって・・・あの子、そんなにすごいんですか?」

「マフィアの中では有名な話。ウチも知ってたくらいだから」

「ええっ!」

「そうなんだ。彼の噂は殆ど都市伝説の類だけどね。彗星のごとく現れて、数多の常識を覆したんだ。まさかボンゴレに所属しているとはね」


コードネーム・メカ。
正体不明の技術屋で、前衛的な論文を発表したかと思えば、自ら戦場にも立ち、研究と実験の為ならなんでも冷静にこなす。
・・・私が知っている弟像とは似ても似つかないけれど、正ちゃんが言うのならそうなのだろう。スパナが知っていたとなればその知名度は余程のものだ。


「私・・・何も知らなかったんだ」


いくら離れて暮らしていたとはいえ、姉として情けないことだった。同時に、マフィアの技術者として弟が何倍も上手だということに、うろたえている。


「なんだか全然違う人みたい。ちゃんと話、しなきゃいけないってわかっているけど・・・どう接したらいいんだろう」

「そんなの、いつも通りの助手子が一番良いに決まっている」


つい吐いた弱音。しかし隣に座るスパナは、なんでもないように言ってのけた。どういうこと?とスパナを見つめると、彼は柔らかく笑って、私の頭を撫でるのであった。


「例え彼が立派なメカニックだとしても、助手子の弟であることには変わらない。そうだろ」



130509



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