真実 沢田綱吉、アイリスとジンジャーを撃退。 その報告に、思わず胸をなで下ろした。大丈夫だとは信じていたけど、やっぱり幹部クラス二人を相手に、確実な勝利は断言できなかったから。正ちゃんの背後からモニター越しに様子を見ていたのだけれど、スパナが標的にされた時はひやりとしたものである。 けれどすぐに、緩んだ頬を締め直す。事態は決して、良いとは言えないのだ。 ボンゴレ側は、何チームかに分断されて行動していたらしい。その内のひとつはγさんと相討ちに、別のひとつは幻騎士によって倒されて、既に捕獲されてしまっていた。 (相討ちってだけで、かなり凄いのだけど) 見れば、本当に子どもばかりである。それはボンゴレの戦力をごっそり削いだ、私たちミルフィオーレのせいでもあるのだけれど。 でも、残ったのは綱吉くんだけ。スパナを連れているとはいえ、モスカを動かすことはできない。正直、ボンゴレの勝利は難しい。このメローネ基地は、正ちゃんの手の上同然なのだ。 そして今私たちは、正ちゃんの研究所に来ている。綱吉くんの発言で彼らの目的地がここだと知れたのである。 (命に大事はないみたいだけど・・・) 少し離れたところに、透明な筒状の監禁室。そこに捕らえられたボンゴレの面々。私はというと、手錠やら縄やらで拘束された状態で、正ちゃんの前に立たされている。 そうして待つこと数分。 遂に綱吉くんとスパナは、ここへ辿りついた。 「睡眠ガスで眠らせてある。少しでも抵抗するそぶりを見せれば毒ガスに変更する」 正ちゃんは捕らえたボンゴレの仲間たちを指しながら、綱吉くんに言った。綱吉くんは押し黙り、正ちゃんを睨みつける。その様子に、正ちゃんは捕らえた彼の仲間たちへの睡眠ガスを停止、とたんに目を覚ました彼らは自分たちの状況に焦燥する。 対峙する綱吉くんの背後で、スパナが私を見つめていた。 (私は大丈夫よ) にっこり笑ってみせると、スパナはあからさまに安心したような表現。良かった、怪我も大事には至らないみたい。 あとはもう、成り行きに任せるしかない。スパナと同じ結末を迎えられるのであれば、なにも怖くはない。 「沢田綱吉、大空のボンゴレリングを渡しなさい。さもなくば守護者を毒殺します」 チェルベッロの声が響いた。目覚めたばかりのボンゴレの仲間たちが、焦ったように口々に喚いている。けれど綱吉くんは、動揺したようにリングと正ちゃんに何度も見比べるだけで、攻撃を躊躇っている。それはそうだろう。味方の命が握られている、簡単には決断できない。 「3・・・2・・・1、」 だが迷う間に、チェルベッロのカウントダウンは迫る。 ――そして。綱吉くんが行動を起こさないままに、銃声は鳴り響いた。 「え・・・?」 けれど思い描いた予想と現実は異なり。倒れたのはチェルベッロの二人である。 ピストルを持った正ちゃんに、一同は目を丸くする。 「よくここまで来たね。君たちを待っていたんだ・・・僕は、君たちの味方だよ」 言いながら、間の抜けた表情で床に崩れ落ちたのは入江正一その人で。 呆然とした頭で私が思ったのは、それが久々に見る司令官でない”正ちゃん”の表情だということだけだった。 130201 |