見くびっていればいいよ


バタバタと、音を立てて走り回る複数人をやり過ごし、私は慎重に廊下を進む。

この辺りは、下級隊員の詰所だ。ボンゴレ奇襲に戦闘力を割いている為、現在基地に残っているのは本当の下っ端ばかりだろう。
そして、この緊急事態。正ちゃんの指示は、末端までは伝わってないに違いない。何度かすれ違った隊員たちは、私に見向きもしなかった。でも、安心はできない。幹部クラスに出くわしたら、文字通り瞬殺される。

(流石に、スパナの寝返りバレてるだろうから)

綱吉くんを保護して、もうそれなりの時間は経つ。あの正ちゃんが何時までも、気づかない筈がない。
私の目標は、生きたまま正ちゃんに会うこと。その後のことは運を天に任せるしかないが、そこまで辿りつけなければ、僅かな希望も生まれない。だというのに。

(おかしい、方向があべこべになってる)

部屋から出て、すぐ気づいた。私の記憶していた配置と、基地の構造が全く変わってしまっていたのだ。

(さっきのあの・・・地震かな)

恐らく、私たちにも知らされていない正ちゃんの奥の手なのだろう。基地の構造を動かすなんて常識外れ、ミルフィオーレの連中は簡単にやってのける。

(これは仕方ない、よね)

私はひと呼吸置いてから、丁度廊下を走ってきた二人を捕まえた。


「こんばんは、私のこと知ってる?」


笑いかけながら、訪ねる。見覚えのない男。年は私と同じくらいだが、背はちょっと高め。これくらいなら大丈夫だろう。
二人は私を訝しげに見返しながら、しかしすぐに慌てて敬礼を取った。多少、名が知れていて助かった。


「はっ・・・スパナ氏補佐、C級助手子氏でいらっしゃいますか」

「その通りです。君は新人くんかな。その通信機、司令官に繋がる?」

「はいっ通信可能です」


歯切れの良い言葉に満足しながら、おもむろに、一方の男へ銃を突き付けた。


「うちのスパナの新作でね。一発でどんな大男も木っ端微塵になるレーザー銃です」

「!?」

「君、同僚の命が惜しかったら入江司令官に今すぐ連絡を取りなさい。すぐに助手子を迎えにくるようにって、ね」


真っ青になる二人を気の毒に思いながら、ここからが勝負だと歯を食いしばった。仕方ない、生きる為だもの。

私も、随分逞しくなったものである。


121209



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