時は満ちた


メカという青年は、ボンゴレ10代目の専属メカニックとして働いていた。並盛出身の彼はフゥ太とは幼馴染のような関係を築いており、それがきっかけでボンゴレへ就職したのである。
技術者としては超一流、素性本名は全くの不明、メカという愛称のみがマフィア界で囁かれているという実に将来有望な若者だった。

獄寺によく懐いていたメカは、ビアンキにとっても弟同然である。しかし、時として情を越えて疑惑や憎しみが沸き上がるのは当然、否、親しみがある分余計に苛烈となる場合は多々ある。


「・・・どうしてそんな大事なこと、今まで黙っていたの?」


静かに切り出したビアンキは、何かに耐えるようにぐっと手を握り締める。この戦いにおいて、彼女はあまりにも多くを失った。それでも耐えてきた彼女に、信頼する弟分の暴露はあまりにも酷だった。


「もし早くからそれを知っていれば、こんなことにはならなかったのではないかしら。犠牲者を最小限に留められたかもしれない・・・!」

「いや、それはどうかな。最悪、メカと入江の繋がりを疑って仲間割れしかねなかったと思う。いくら昔馴染みでも、ミルフィオーレとしての入江はメカも知らなかったんだ。却って、場が混乱せずに済んで良かったんじゃないかな」


対して、声を上げたのはフゥ太だ。フゥ太は、感情を押し殺した声で冷たく続ける。


「現に今、ビアンキ姉は冷静を欠いてるんじゃない?」

「そんなのは詭弁よ。私は疑わしいのなら、今からだってメカを作戦から外したいと思っているわ」

「僕はメカを信用したい。メカのことは、もう何年も見てきた。もし疑うばら、出会いから疑わなければならないよ」


ジャンニーニやリボーン、通信機の向こう側の綱吉とスパナは黙って成り行きを見守っている。

(・・・駄目だ、場がピリピリしすぎ)

見かねたメカは、ため息混じりに口を挟んだ。


「こんな大事な時に余計な混乱を招いて、申し訳ない。これは本心。そこに関しては全面的に俺を責めてもらっていい。でも、あらかじめ伝えるのはどうしても無理だったんだ」

「早急に事態を解決する以上の理由があるのかしら?」

「ボスに・・・今の若いボスじゃなくて、大人のボンゴレ10代目に口止めされてたんだよ。時が来るまで話すなって」


ビアンキは、開きかけた口を噤む。10代目の命令は絶対である。


「ちょうど、ボスが居なくなる直前のことだ。その頃初めて、俺は入江正一の存在を知った。勿論すぐにボスに伝えたよ。でも・・・」


――時が来るまでは、君の胸の内に。その時になったら、わかるよ。


今も耳の奥にこびりついている。あの時の言葉。
それは決して悲観するような響きではなく、ましてや部下を裏切るようなものでもなかった。未来への期待、一縷の希望を託すような声色。
少なくとも、メカはそう感じた。だから今まで、自分の心にのみ秘めていたのである。


「それで、口止めされていたことを話す意義はあったか?」

「ええ。きっと、このタイミングでなければならなかったんです。ボスが考えていたことは分からないが、あとは成り行きに身を任せるしかない」


リボーンはメカの答えに満足したように、ただ頷く。他のメンバーもこれ以上彼を問い詰める気はないようだ。
最後にメカは、通信機に向かう。


「ボス。ボスは自分の思う通りに動いてください。俺は何があろうとボスに従う、それだけは絶対だ」


映像通信ではないので、メカから綱吉の表情はわからない。が、向こう側で綱吉が微笑んだような気がした。


「メカのおかげで、確信できたよ。間違ってなかったんだ・・・入江正一を捕まえて、オレ達が過去へ帰る方法を白状させるんだ!!」




「何に気づいたって、時すでに遅しだよ」


突如、響く女の声と爆音。綱吉が振り返った先には、屈強な男たちを従えた、アフロヘアーの女の姿。スパナが焦りを滲ませて呟く。


「アイリスと死茎隊・・・」


懸念していた、追手の登場だった。


121104



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