誓いの証


「私、研究所に向かうね」

「そうだな。助手子、気をつけていけ」


スパナは綱吉君用のコンタクトレンズを調整しながら、私の申し出を二つ返事で快諾した。どうやら20分ばかり掛かるらしく、それまでは待機しているしかない状況である。


「えええ、研究所って入江正一が居るところですよね!?危険ですよ!もし俺を匿ってるのがバレたら…!」

「確かに、綱吉君のことを知られてたらまずいかな。でも今の混乱状態だと下までは情報伝わってないと思う。無事にたどり着ける可能性、高いのよ」

「だとしても、わざわざ敵地に行くなんて自殺行為ですよ!!」

「落ち着いて綱吉くん。貴方は最終的に正ちゃんに会いにいくんでしょう。なら私は、先に行っていた方がいいの」


出来うる限りで現状を把握して出した、ベストな選択である。スパナも同じ結論に至ったから反対しなかったのだろう。


「スパナはともかく、私は普通の女子でしかない。いざという時に、足手まといにならない為にも、確実に安全な方法で私は先に目的地に到着して、二人の合流を待つわ」


もしスパナの寝返りがバレていたら、私が向かう途中で捕まるよりも、ここで襲撃を受ける事の方が現実的だ。そうなったら私はお荷物でしかない。スパナと綱吉君二人でなら、ようやく切り抜けられるかどうかといった具合だろう。
それに、もし捕まっても私はきっと大丈夫。スパナへの人質として生かされると踏んでいる。ここに残る二人の方が心配なくらいだ。


「助手子、ちょっと」


不意に顔を上げたスパナは、私を引き止めた。私は彼の傍らに屈む。


「どうしたのスパナ」


スパナは、黙って私の左手を掴むと目線の高さまで持ち上げた。それから、ポケットを探って何かを取り出す。…ナットだった。ネジの留め具に使う、ドーナツ状に真中に穴の開いたもの。わずか直径3センチ、厚さ0.5ミリほど。それを、流れるような動作で薬指にはめ込む。これは、まるでーー…


「今はこれしかないから、代わり」


スパナは優しく笑って、囁く。


「この戦いが終わったらウチと結婚して」

「……ッ」


握られた左手に熱が籠もる。指にはひやりと冷たく重たい、鉄製の婚約指輪。実際は指輪と呼ぶにはお粗末なナットだったけれど、何十カラットのダイアモンドを貰うよりも、私にとっては遥かに嬉しい約束の証。
返事なんて考えるまでもない。ずっと前から、他の選択肢など用意していなかったから。


「うん、楽しみにしてる。だから早く合流してね」







「……俺ここに居ていいのかな」

「確実に邪魔だな。ダメツナは気がきかねーな」

「リボーン…!そんなこと言ったって席外せる状況じゃないから!」

『………姉の婚約現場をリアルタイムで聞かされてる俺よりはマシっスよ』


121005



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